日記を読んでもいいのは
「よっしゃああああ!……もしかして、抱きしめてもいい?」
「うん」
夢見心地で答えた途端、ギュッと抱き寄せられる身体。私と蒼大の隠しきれない大きな心臓の鼓動が重なり合う。
「やべぇ、めちゃドキドキしてる」
「私も」
これ以上抱きしめられていると倒れるかもしれない。たまらず身体を離すと、蒼大の顔も今までにないほど真っ赤だった。
乙女なの?なんていつもの調子で揶揄えないほど照れくさくて。顔を逸らすと、蒼大もそうだったみたい。
「わりぃ、ちょっと落ち着くまで待って」
自分の顔を隠すように手で覆った蒼大。
その気持ち分かる!私もしよ。2人向かい合い、熱くなった顔を手で覆う。
2人でふぅーっと深呼吸。少し心を落ち着けて、手を頬へとずらす。
蒼大を見上げると、顔を真っ赤にしたまま、真剣な眼差しで私を見つめ返してきた。彼はもう一度息を深く吸い込むと、覚悟を決めたように口を開く。
「俺、七海がサトウ国に行ってから会いたくてどうにかなりそうだった。七海がいないともう生きていける気がしない。ずっと一緒に居てほしい……結婚してください」
けっこん……ケッコン?結婚!?いきなりー!?付き合いだして秒で結婚?!
再び投下された蒼大の超特大爆弾発言に、私はまたしても息が止まった。
神様、リッカ様……驚きすぎて声がでま……せ……
「……そうだ、リッカ様、お父さん!」
本来の目的を思い出した私は、突然素っ頓狂な声で叫んだ。
「ねえ、蒼大の名字って何!?」
「あ?立花だけど」
「えっ?立花?佐藤じゃないの!?」
「佐藤は母さんの旧姓」
「それだー!」
お父さん、リッカ様の旧姓を名乗ってたって事?
心はリッカ様と共に。とか……?付き合っていた頃の思い出を胸に……とか!いやいや、考えてもわかんないから!
「なぁ、それ今するほど重要な話か?」
「重要だよ!大事な話があるって言ったでしょ!」
「は?大事な話って七海からの告白じゃねーの?」
「え?違うよ?」
「はぁあああ?!俺はてっきり……」
「いいから来て!」
動揺する蒼大の腕をガシっと掴んでまずは城内を歩いていたレノックスと合流。
レノックスは蒼大の顔を見るなりニヤッと微笑んだ。
「やぁ、王子様」
「は?何言ってんだ?」
怪訝そうな蒼大。
レノックスのあまりにデリカシーのない発言に、私は目をかっ開き、口をパクパクさせてレノックスに無言の抗議。
「良いじゃないか事実だし」
飄々としているレノックスに「いい加減にしろ」と顔で脅しを入れていると、蒼大がすっと私の前に立ち塞がった。
「2人でコソコソ何言ってんだよ?七海はさっき俺の彼女になったから。手を出さないよーに」
牽制するように睨む蒼大に、レノックスは「そうか、おめでとう」とニコニコ微笑んだ。
レノックスって掴みどころが無いというか……私は再び蒼大の手を引いて現サトウ王の元へと急ぐ。
執務室に通され、現サトウ王と蒼大のご対面。
挨拶を済ませ、握手を交わす。サトウ王は蒼大の手を握ったまま、その顔をまじまじと見つめた。
「君、私のお祖父様に似ている……」
「そっすか……」
サトウ王の言葉に興味なさそうな蒼大に、急いで持ってきてもらった初代サトウ王の遺品を見せる。
「これを見てほしいの。初代サトウ王のアルバムを……」
私はスマホの電源を入れ、入学式の写真を開いて蒼大に差し出した。
蒼大は不思議そうに目をパチクリとさせた。一瞬の間。
画面に映る顔を認識した瞬間、バッとスマホを奪い取り、食い入るように見つめた。
「父さん……」
少し掠れた蒼大の声。スマホを持つ彼の手が、小刻みに震え始める。
やっぱり……お父さんだった。
気付いた時と同じ、なんとも言えない気持ちが胸に広がる。
蒼大は無言で画面をスクロールし、次々と写真を確認して信じられないと言った表情で画面を見つめている。
現サトウ王は不思議そうに首を傾げ、何か言いたげに、でもグッと黙って蒼大の様子を見ている。
私も、思った事をすぐに口に出すレノックスも、黙って蒼大を見守る。
蒼大は俯き、スマホの画面に小さな水滴を落とした。
「……大事な話ってこれだったんだな……」
「……うん。あとこれも……」
手渡したのはサトウ王の日記帳。これを読んでいいのはこの世界で蒼大1人だけだ。
蒼大は震える手で日記帳を受け取り、ゆっくりと開く。
ほんの少し目を通して目頭を押さえ「うっ」と短い嗚咽を上げ、これ以上泣いてしまわないようにか、パタンとノートを閉じた。
「わり……これは1人の時に読ませてくれ……父さんさ、俺が小1の時、船で大きな事故にあったんだ。父さんの遺体だけが見つからなくて……サメにでも喰われたんだろうって……でも、この世界に飛ばされて幸せに生きてたなら……良かった……」
声を詰まらせ、ぽつりぽつりと話す蒼大に耳を傾ける。
私ももらい泣きで一気に視界が滲んでしまう。
サトウ王も事情を完全に理解したようで、涙目で切なそうに、けれど温かい瞳で蒼大を見つめ、うんうんと頷いた。
沈黙の後、涙が落ち着いた蒼大はゴクリと唾を飲み、スマホに付いている招き猫を指で撫でた。
「……ありがとな……」
蒼大は1人で納得したように呟いた。
「その招き猫、蒼大も持ってたよね?」
私が聞くと、蒼大はズボンのポケットから招き猫のキーホルダーを取り出した。
「ああ。母さんの家系、昔まじない道具とか作ってたらしくてさ。これは幸運のお守りだから肌身離さず持ってろって母さんに渡されたんだ……」
さすがリッカ様の家系。
蒼大が招き猫のルーツを話しながら、お父さんの招き猫の隣に自分の招き猫をそっと並べた。その瞬間、招き猫のオデコに付いている石が共鳴するようにパァッと光った。
「えっ?!」
全員が驚きの声を上げると、光は宙を舞い、スウッと消えていった。暫く全員が絶句。
「……これ、スマホから外して蒼大のキーホルダーにつけてあげた方がいいんじゃない?なんとなく」
私が静寂を破り提案するとサトウ王も頷いた。
「そうだな。一緒にしてあげよう」
「だな……」
2つの招き猫を1つのキーホルダーに付け替える。
その様子を見ていたレノックスが「一件落着。ほら、ソウタもサトウ王も大丈夫だっただろう?」と何故かドヤ顔。
「そうですね」
出来る限りの虚無顔で返事をしたその時。
初代サトウ王のスマホの画面がプツンと真っ暗になった。慌てて充電しても、まるで『蒼大に真実を伝える』という最後の役目を終えたみたいに、もう電源が入らなかった。
そして——
「蒼大叔父さん」
真顔のサトウ王に呼ばれた蒼大は盛大に顔を歪めた。
「おじさ……?!マジで!勘弁してくれ……!」
嫌がる蒼大を見て、レノックスが揶揄うように笑った。
「やぁ、ソウタ叔父さん」
「だ・か・ら!それやめろって!」
顔を赤くしてブチ切れた蒼大と、ひらりと躱して揶揄うレノックスが、わちゃわちゃと子供みたいにやり合いだして。
いつもの蒼大に戻ったみたい。
たまにヒヤヒヤしちゃう事もあるけど……ありがとうレノックス。




