たちばなじんじゃ
翌朝。障子越しに差し込むまぶしい光と、遠くから聞こえるサトウ国の活気ある声で目を覚ました。
発覚した新事実に触れずに1日を過ごそうとしていた矢先、朝の挨拶もそこそこにレノックスから核心についた質問をされてしまった。
「ソウタは初代サトウ王の家族だね?息子じゃないのかい?」
衝撃とバレていた気まずさで、私が何も答えないでいるとレノックスは「ふふふ」と笑った。
「ナナミは優しいから、何をそんなに心配しているのか分かるような気がするよ。3代目サトウ王なら親戚が出来てきっと喜ぶだろう。それに、詳しく分からないが、もしソウタのお父さんが行方不明になっていたなら、見つかって良かったと言えるだろう?」
「そうなのかな?蒼大のお父さんの事は詳しく知らないけど、亡くなったって聞いてたの……だから本当にお父さんなのか確信はない。ただ、私は蒼大に傷ついて欲しくなくて」
「ナナミはソウタの事が好きなんだね?」
「……うん」
肯定した。頷いちゃったよ。
「だろうね、2人はお似合いだと思うよ。お互いを思い遣っていて見ていて微笑ましい。でも、傷つくか傷つかないか、サトウ王の事を受け止めるか受け止めないか、全て蒼大が決める事じゃないかな」
そう、レノックスの言う通りだ。
決めるのは蒼大。もし、もし傷ついたら……私が力になろう。蒼大の悲しみや、モヤモヤ、心の傷まで吹き飛ばしちゃうほどの存在になりたい。
もし黙って寄り添って欲しいならそうしてあげたい。
子守唄を歌って欲しいなら歌ってあげたい。
今まで蒼大が私にしてくれたみたいに。
「ナナミ、さっきと表情が変わったね」
「うん、ありがと。蒼大にバレないようにした方がいいかもとか、1人でずっと悩んでた。書こう、手紙」
「うん。ハヤイ鳥の手配は僕に任せて。どちらにしろソウタが来ないとどうにもならないからね。今日は楽しもうよ」
こくんと頷いて、レノックスと共に手紙を書き、予定通りコンビニに向かった。
「こんびにえんすすとあ」の木枠のガラス戸を開けると、カランコロンと聞き慣れない和風の入店音が鳴った。同時に鼻をくすぐったのは、焼きたてのパンの香り。店内を見渡して、私は思わず息を呑んだ。サトウ王は本気でコンビニを作るつもりだったと伝わってきたから。
お弁当コーナーに焼き立てパンコーナーは勿論、飲み物コーナーにお酒もあって、お菓子もおつまみも。極め付けはサトウ新聞まで売っている。トイレも「ごじゆうにごりようください」で思わず拍手。
「サトウ王完璧すぎる!さすが蒼大のお父様……私もこの世界にない何かを再現したい!伝えたい!」
「ふふっ、それは楽しみだね」
レノックスはサラッと流したけど、私は本気。
この世界でやるべき事を見つけた気がする。尊敬するサトウ王が伝えきれなかった何かを広めるの!
隣のお土産屋には招き猫やかんざしが売っていた。色々な種類の招き猫が売っている中、キーホルダーコーナーで足を止めた。
蒼大が持っていたキーホルダーサイズの招き猫。
おでこに石が埋まったタイプ、要するに蒼大とお揃いのも物も並んでいた。でも、一個の金具に2つ招き猫がついている。
蒼大とサトウ王のスマホに付いていたのは一個ずつだったけど、この世界では2個なんだ?
少しお得感を感じつつ、招き猫キーホルダーをお土産に購入。味噌と醤油とお米も忘れずに大量注文。
帰ったら蒼大と一緒に日本食ライフを送る為!
次の目的地はコンビニの店員さんに勧められた、街から少し離れた場所にある「たちばなじんじゃ」入り口には狛犬ならぬ狛猫がいて大興奮。
「なんで猫なの〜!初代サトウ王は猫派だ!」
きちんと手入れされた赤い鳥居をくぐると、空気がスッと冷たくなった気がした。足元の砂利がサクサクと鳴る。
立派な拝殿に向かい、太い縄を揺らしてガラガラと鈴の音を響かせた。目を閉じ、お賽銭を入れてひたすら祈る。
「蒼大が傷付きませんように。お父さんが見つかって喜びますように。誰よりも幸せになりますように」
ここまでお祈りしてふと思い出した。
絶対神のリッカ神様から「蒼大はありえないほど幸せになる」って言われた事を。
日記を見せても、スマホの中の真実を見せても。蒼大はきっと大丈夫だ。
「ありがとう、リッカ神様」
って、他の神様のおやしろでリッカ様に祈ってごめんなさい——
お祈りしたからか、リッカ様の言葉を思い出したからか。
急に心が軽くなり、狛猫をスマホで写真を撮ってニヤニヤ。
電波が通じていたら蒼大に写真を送るのに。
スマホって本当偉大だったよね。離れていても顔を見ながら話せるんだもん。
はぁ、会いたいな。
昼食は首都から遠ざかり、昼食はお勧めの和食レストランへ。鉄鍋で出てきたのはグツグツと音を立てるすき焼きだった。溶き卵にくぐらせてお肉を頬張ると、ジュワッと肉汁が溢れて……当たり前に美味しくて最高。
食べ物系はサトウ王がほぼ伝えきっていると言っていいかもしれない。
この世界でサトウ王が広めていない、再現できそうな何か。ないかなぁ。
洗濯機も冷蔵庫も扇風機もクーラーもあるし。
私だからできる何か……何か……
考えながら馬車から見える景色を眺めていたら、整地されてはいるが、何も建っていない土地が広がっている場所があった。
勿体ないな。グラウンドにでもすればいいのに……
あ。
「野球!」
私があまりに突然叫んだのでレノックスは驚きで身体を揺らした。
「ナナミ?どうしたの?野球、たしかコウシエンだよね」
「そう!覚えててくれたんだね!確認だけど、この世界に野球は無いんだよね?」
「ないよ。ナナミの話を聞いて楽しそうだと思った!コウシエン!」
そうだよ、野球よ!世界は違うけど監督になれば私の夢も叶うし一石二鳥!
決めた、この世界に野球を広めてみよう!
ボール、作れるかな?




