2人の森生活
折角なのでキャンプ気分を味わおうと河原に石を積み上げ、2人並んで座り魚を焼く。
もう肩が触れそうで触れない距離に蒼大がいるのが当たり前みたいに心地よい。
魚が焼けると2人でいただきますと手を合わせる。パクっとかぶりつくとオリーブに似た独特の香りが鼻を通り、ほろりと身が崩れうま味がじわっと口の中を占拠する。
「美味しい!」
「うまっ」
2人顔を見合わせにっこり。
皮はパリパリ。身はほろほろと柔らかくて。キッチンにあった塩が最高の活躍をしてくれた。
「美味しくて幸せ。これにおにぎりがあれば文句なしだったね」
「それな。俺も今米くれって叫ぼうと思った。贅沢言うと味噌汁も欲しいぜ」
「あー分かりすぎる!」
「米どっかにねーかなー」
「お米と味噌があると良いよね〜」
2人揃って白米に思いを馳せつつも川の音を聞き、名も知らぬ魚の塩焼きに舌鼓を打つ。
ここで蒼大とこんな生活をして生きていくのも悪くないかもしれない。
「生活出来るならこうやって森で生活していくのも楽しいかもね」
「だな~。ずっと七海と2人で……」
言いかけて言葉を止めた蒼大。それっきり黙りこくってしまった。
もしかして好きな子の事を思い出したのかも。
『ここに一緒に来たのが私じゃなくて好きな子だったら良かったのに』とか思ったんだったらどうしよう。
「ここにいるのが私でごめん」
「また急に何言ってんだ?七海で良かったけど」
「や、ここにいるのが蒼大の好きな子だったら良かったのに。とか思っちゃって」
「……もーその事は気にすんなって。つか、俺七海の事好きだから大丈夫」
好きって言うたった一言でバクバクと心臓が跳ねるけど、軽く好きと言える関係は人として。友達として。の枠。
自分が発する言葉で、私がどれだけ葛藤しているか蒼大には絶対分からない。
「ありがとう。私も蒼大が好きだよ。人として、めっちゃ良い奴だもん」
「お……ありがとな」
手に持っている魚を見ながら話しているから私の表情は蒼大には分からないし、蒼大の表情も分からないけど。
いつもみたいに優しい顔で微笑んでいるんだろうな。
蒼大は朝食後に川に入って水遊び。ただの川も蒼大が立つだけで1枚の絵になる。
濡れた手で上げただけの前髪。濡れたTシャツを絞る動作。こちらに見せる自然体の笑顔。
全てが眩しすぎて目が離せない。
見つめすぎたのか、目が合うと蒼大は川から出てきた。
「暇そうだな。川入んねーなら探検でも行くか?」
建物の裏側にも細く人工的に作られた道があった。その先がどうなっているのか気になる。
「行く!」
お昼ご飯用に冷蔵庫にあった卵とパンで卵焼きサンドウィッチを作り、いざ出発。
「七海卵焼き作るの上手だな」
「え?そんな事ないと思うけど」
「うちの母さん卵焼き巻くのが苦手なのか、いつもオムレツみたいなのが出てきた」
「それ普通にオムレツだったんじゃない?」
なんて他愛もない話をしながら作られた道を進む。
小屋を探していた時と違い、心に余裕があるので心なしか足取りも軽い。
20分程で道の先が見えてきて、蒼大が声を上げた。
「出口じゃね?!」
ポッカリと開いた先に木々が見えない。顔を見合わせ自然と2人で手を取り走りだす。
森を抜けると延々と続きそうな一本道があった。建物などは見えないけど、土の道には馬車のものと思われる轍がある。
「出た!」
「やっとだったね!道、左右どっちかに向かって歩いてみる?」
「とりあえずやめとこーぜ。どこまで続くかわかんねぇし」
「はーい」
もう少し繋いでいたかったけど、手を離す。と——またすぐ手を繋がれた。
「やっぱちょっとだけ行ってみねぇ?」
「うん!折角お弁当も持ってきてるもんね」
ぎゅっと手を握り返した。へへ。
舗装されていない馬車の轍がついた道。周りに建物はなく、道沿いは等間隔に背の高い木が立ち並び続いているので、似たような風景だと家に帰れなくなりそうで心配。
「目印つけとこ」
「落ちてる枝でも立てとくか?」
「うん」
私が落ちている枝を拾うと蒼大が土を集めて山を作る。
当たり前だけど何をするにも2人一緒。蒼大が作った山に枝を刺して出発。
延々と続く一本道。何だかノスタルジックな気分。でも、暫く歩いても見える風景が何も変わらないので飽きてしまった。
「戻るか」
「賛成」
結局家に戻り外のベンチでサンドウィッチを食べて家の主が来るのを待った。
「今日も来なかったね」
「まーいつか来るだろ。牛乳が腐るまでには」
「ん〜」
そうは言ったものの、結局その日も主は来なかった。次の日も。そのまた次の日も。
そうして1週間が経った。
何故か捌き方を知っていた蒼大のおかげでイノブタのお肉を冷凍保存。川で魚も釣れるし食料問題も何もなく普通に生活出来ている。
「イノブタ美味いな。米欲しい」
「ご飯食べたくなるのは日本人だからだよねー」
なんてまったりお米に思いを馳せたり。
「見て!キノコ生えてるよ。美味しそう!これ食べられないかな?」
「いや、キノコはやめとこうぜ」
「あ、あの鳥がいつもピーピー泣いてるやつ!」
「あー、あいつか!青くて綺麗だな」
なんて山を散策したり。
「今日も星が綺麗だな」
「うん、月も綺麗だし日本じゃ見た事ない程夜空が綺麗だよね」
なんて自然を満喫してみたり。
出来る事は少ないけど、別に苦痛じゃない。まったりゆったりと時間が過ぎる。
蒼大とは一緒にいるのが当たり前みたいにスッカリ居心地のいい相手になり、もう夜も躊躇うこともなく普通に同じベットで寝ている。
もちろんひっついたりせずお互いのテリトリーで。
ただ一度だけ、寝ぼけていたのか蒼大に後ろからぎゅっとされた。
驚いて息を止めちゃったけど、蒼大はすぐに寝返りを打って離れた。
そのギュッが忘れられない。背中に感じた蒼大の身体の温もり。頭のすぐ後ろにある蒼大の顔。感じた吐息。一気に熱くなった私の体温。
もうちょっとだけ寝返り打つのが遅かったら良かったのにな。




