第一異世界人現る
「あの~」
聞き覚えのない、困ったような声が耳に入って来る。夢かな、と思いながらうっすらと目を開けた。
「おはようございます、ハンスですー」
ハッキリ聞こえた声に、慌てて目を開け起き上がる。
降り注ぐ朝の光の中、20代半ばくらいの男性が立っていた。
茶色の髪を後ろに流し、眉と目の間が狭くグレーの瞳で男らしい顔だ。
服装は白いシャツに茶色の紐付きベスト、茶色のズボンで腰に革のポーチをぶら下げている。まるで中世ファンタジーの平民そのもの。
とうとう来た!間違いない、異世界人だ!
「あの~」と聞こえたという事は、言葉が通じるみたい。色んな感情が湧いてくるが、まずはと慌ててベッドを下り、深々と頭を下げた。
「はじめまして。勝手に家をお借りしてすみません。私達迷子で困り果てていた時にこの家を見つけてお借りしてしまいました」
「そうでしたか。家を使われた事よりこんなに美しい女性がこの世にいる事に驚きました。寝ている姿はまるで女神のようでしたよ」
寝起きのボサボサ頭で、初対面の人から信じられない言葉を言われた気がする。
あっけにとられていると男性は私の手を取りスマートに手の甲にキスをした。
わぁ!日本じゃ考えられない!
この世界の男性はお世辞が上手い、そして女性の扱いに慣れている感じ!
軽いカルチャーショックを受けていると男性はにこやかに続けた。
「僕の名前はハンスです。あなたのお名前は?」
「私の名前はナナミ・オガワ。ここで背中を向けて寝ている彼は……ソウタ、ソウタです」
そう言えば今更だけど蒼大の名字知らないや。占い師のお母さんの名前も名字なしでリッカ様だもん。
蒼大を起こして自己紹介をして貰おうとした時、ハンスが壁に掛けてある特攻服を指差した。
「あのコートは一体……」
「あれは特攻服といいます。蒼大の服なんですが……えと、ヤンキーが着る服です」
「ヤンキー様……!なんと力強く立派な刺繍なんでしょう!このような服は初めて見ました!大胆に金色を使い花を形どった刺繍のデザインも素晴らしい!お2人共高貴なご身分の方とは知らず、申し訳ございませんでした」
突然床に膝をついたハンスを慌てて止める。
「違う、違います!何を誤解したのか分かりませんが、私達この世界の人間じゃないのでそんな事しないでください!」
「ほ?この世界の人間じゃないとは?!」
ハンスはすぐに立ち上がり、食いつくように前のめり。
興味津々のハンスに、気が付いたら森にいた事と、この家に至るまでの経緯を説明した。
「オー!ナナミとソウタは異世界人でしたか!それは心細かったでしょう!」
正直あっさりと信じた事に驚きを隠せない。普通疑わない?
「疑わないんですか?」
「ハイ。サトウ国の初代の王様が異世界人だったと伝えられています。サトウ王は生活に役立つありとあらゆる便利な物や仕組みを発明し、この世界に大きな貢献をしてくれました」
サトウってもしかしなくても佐藤?完璧日本人だよね!
「だから日本語が使われてるんですか!?」
「日本語?」
「牛乳や冷蔵庫、電気のスイッチにひらがなで書いてある言葉です」
「サトウ語の事かな?サトウ王が発明した物は感謝と尊敬の意味を込めて今でも全てサトウ語が使われています」
「なるほど!そう言う事なんですね」
1番謎だった事がスッと解決。
私達よりずっと前に佐藤さんがこの世界に来て、この世界で再現出来るものを生み出して活躍して王様になったのかな?凄い、ラノベみたい!
「蒼大起きて!とうとう人が来たんだよ!」
昨晩遅くまで起きていたからか、なかなか起きない蒼大を揺り起こす。
ん?と寝ぼけ眼でハンスを見上げた蒼大は驚いたように一瞬で目を丸くして、慌ててベッドの上に正座した。
「あ、お邪魔してます」
正座って。蒼大が何故グレたのか本気で分かんないから今度聞いてみよう。
「はじめまして。ソウタ・ヤンキー様。僕はハンスと言います」
ハンスはヤンキーを名字だと勘違いしていたみたい。焦って蒼大を見ると正座したまま薄っすら笑っている。
「ヤンキー様か……ヤンキーの前にドを付けたらカッコよくね?せっかく異世界に来たんだしさ、俺の名前はソウタ・ド・ヤンキーで!」
蒼大が冗談ぽく言うと、ハンスは深々と頭を下げた。
「ソウタ・ド・ヤンキー様。以後お見知り置きを」
「こちらこそよろしくお願いします」
ヤンキーとは思えぬほど丁寧に返したソウタ・ド・ヤンキー。本人が良いなら何も言うまい。
蒼大にサトウ国の話をして、2人で改めてハンスにお礼を伝えた。
命を助けてもらったも同然なので、何かお礼出来る物はないかとショルダーバッグを開けたけど、渡せそうな物など何もなく……
——そうだ。
仕方なくお財布から一万円札を取り出してハンスに差し出した。
「私達の国のお金です。こっちの世界だと価値が無いと思うんですが珍しいとは思うので……」
ハンスは目を丸くして一万円札を凝視し、震える手で受け取ると、明かりに向かってお札を向け、すかしを確認した。
サトウ王、お札のすかし技術までこの世界に伝えてたの!?心の中で突っ込んでいると、ハンスの一万円札を持つ手が小刻みな震えからガタガタとした大きな揺れに変わり、「あ、あ……」と声にならない声を上げた。
「あ。七海、もしかしたら逆に日本のお金の価値がバカ高いのかも」
ハンスの様子を見ていた蒼大がこそっと私に言ってくる。
「そうなのかな?」
私は財布に入っている残りのお金を全部出してハンスに見せた。3528円。
「ぎゃあぁ!」
ハンスが悲鳴を上げると、蒼大も「こんなもんどうすんだと思ってたけど、だからか」と、ラッキーアイテムバッグに手を突っ込んだ。
取り出したのは帯の付いた100万円の札束。
今日のラッキーアイテムかな?さすがリッカ様。スケールが違う。
札束を見たハンスは白目を向き、棒のようにバタンッと後ろに倒れた。
ハンスの後ろにベッドがあって良かった!




