夜は乙女的な
私、調子に乗り過ぎたみたい。
顔の真上に蒼大の綺麗な顔がある。
温かなオレンジ色の光に照らされた茶金の髪が私にかかりそうなほど近い。
さすがにこれは私も息を飲んだ。漫画でよく見るシチュエーション。偶然覆いかぶさったのに位置がバッチリな感じの。
あと少し近づいたらキスしちゃいそうな距離。
顔が瞬時に熱くなると蒼大がさっきのお返しと言わんばかりに口を開いた。
「七海も乙女じゃん。顔真っ赤」
「蒼大もね」
普通に答えているけど蒼大の琥珀色の瞳から目が離せなくて、他の全てが目に入らないような感覚。蒼大もただ真剣な表情で見ていて。
このまま溶けちゃいそう。
でも脳裏に現実がよぎって、心に痛みが走る。
私が蒼大の好きな人だったら良かったのに。もしそうなら少し顎を上げて目を閉じるのに。唇が重ねやすいように。なんてね。雰囲気に流されてる。
でも残念ながら蒼大の好きな人はコンビニで告白しようと待っていた誰かであって私じゃ無い。
「ほら、2人で寝ようとか言うからこんな事になってるじゃねーか……」
少し戸惑った表情で不満を言う蒼大にこちらも目を逸らさずに返す。
「蒼大が素直に寝てたらこんな事にはならなかったと思うけど」
「あー、間違いない」
「じゃあもうどいて?寝よ」
「っす!」
蒼大は我に返ったように勢いよく起き上がり、電気のスイッチを消すと素直にベッドの左側に横になった。
洞窟や洞穴と違って肩すら触れない。
触れない距離で背中合わせ。
「ほら、全然広い」
「んぁ」
「何その返事」
「俺にも色々あるんだよ」
「ふーん」
「うわ、興味なさそー」
「そう言うわけじゃないけどとにかく眠くて」
「そっか、おやすみ」
「おやすみなさい」
なんて、そっけなく言ったけど本当は胸がどうにかなりそうで話したくなかった。
痛いくらいのときめきと同じくらい痛んだ心が、知り合ってたった数日の蒼大を好きになって来てるって実感して。ヤバイ。
※※
高い位置にある横長の窓から朝の光が差し込み、蒼大の茶金の髪を照らしている。
金色に光る髪の毛がとても綺麗で、ぼうっと見つめていると、不覚にも昔の事を思い出してしまった。
中学の卒業式の日、片思いしていた人から告白されて付き合い始めた。
夢みたいと思ったけど、私は女子高、彼は共学の高校に進んで。
1カ月もしないうちに彼がそっけなくなり、連絡しても返事もろくに来なくなって。
直接会って話したくて、約束もせず学校帰りに彼の家に向かったんだけど、家にたどり着く前に彼を見つけてしまった。
公園のベンチで私の友達とキスをしている彼を。
あまりのショックに声も出せず、その場に立ち尽くして動けなかった。人目も気にせずボロボロ涙をこぼして泣いて。2人が私に気付いて声をあげたから、先に別れを告げ走ってお家に帰った。
彼氏と友達両方一気に失った苦すぎる思い出。
それ以来今度好きになるなら絶対一途な人が良いと思っていた。
蒼大に惹かれているけど、蒼大にはずっと好きな人に一途でいてほしいような複雑な気分。
ダメだな、1人だと色々考えちゃう。
これ以上変な気分になる前に止めておこうと立ち上がり、小屋の中をキョロキョロと見回す。
昨晩はお風呂と睡眠が優先だったからじっくり建物内見学。
まだ建てられて日が浅いのか、壁の木材は光沢のあるダークブラウン。木製の家具もピカピカで真新しい。
ホコリも無く綺麗に掃除されているし冷蔵庫の中は卵やパン、牛乳も入っている。
待っていたら近いうちに異世界人に会える可能性大!
そして冷蔵庫の上の部分にもひらがなで「れいぞうこ」と書いてあるのを発見。
キッチンのコンロにも「こんろ」
洋式トイレのタンク横にも「といれ」
明かりのスイッチにも「でんき」
どう考えても電気じゃなさそうなんだけど。
この世界、謎は深まるばかり。




