夜は乙女的な
私、調子に乗り過ぎたみたい。
寝不足が続いてるのに、ソファで寝るって言う蒼大に「広いから2人で寝ても大丈夫だよ!嫌だったら私がソファで寝るから今日は蒼大がベッドで寝て!」なんて腕を引っ張ったら、バランスを崩して二人してベッドに倒れ込んでしまった。
ふかふかのベッドに沈み込んだ身体。顔の真上には蒼大の綺麗な顔がある。
温かなオレンジ色の光に照らされた金色の髪が私にかかりそうなほど近い。
さすがにこれは私も息を飲んだ。漫画でよく見るシチュエーション。偶然覆いかぶさったのに位置がバッチリな感じの。
鼻先が触れそうで、あと少し近づいたらキスしちゃいそうな距離。お互いの静かな息遣いが重なる。
顔がカッと熱くなると、蒼大がふっと口を開いた。
「……顔真っ赤だぞ」
「蒼大も真っ赤だけど」
普通に答えたけど、蒼大の琥珀色の瞳から目が離せない。他の全てが目に入らないような感覚。蒼大もただ真剣な表情で私を見つめていて。
このまま溶けちゃいそう。
でも脳裏に現実がよぎって、心に痛みが走る。
私が蒼大の好きな人だったら良かったのに。もしそうなら少し顎を上げて目を閉じるのに。
唇が重ねやすいように。
なんてね。雰囲気に流されてるだけ。残念ながら蒼大がずっと想っているのは、コンビニで告白しようと待っていた誰かであって。私じゃ無い。
「そうだろうな……つか、ほら、七海が引っ張るから」
戸惑った表情で言う蒼大に、こちらも目を逸らさずに返す。
「蒼大が素直に寝てたらこんな事にはならなかったと思うんだけど」
「間違いない」
「じゃあもうどいて?寝よ」
「っす!」
蒼大は我に返ったように勢いよく起き上がり、電気のスイッチを消すと素直にベッドの左側に横になった。
洞窟や洞穴と違って肩すら触れない。
触れない距離で背中合わせ。
「ほら、全然広い」
「んぁ」
どこか投げやりとも取れる蒼大の声。
「何その返事」
「俺にも色々あるんだよ」
「あっそ!おやすみ」
「おう」
なんて、そっけなく言ったけど本当は胸がどうにかなりそうで話したくなかった。
痛いくらいのときめきと同じくらい痛んだ心が、知り合ってたった数日の蒼大を好きになって来てるって実感して。
ここで止めなきゃ。そう思いながら目を閉じた。
翌朝目を覚ますと、高い位置にある横長の窓から朝の光が差し込んでいた。振り返り隣で背を向けたまま眠る蒼大の姿を見て安心する。
スースーと規則正しい寝息を立てるその無防備な背中をぼうっと見つめていると、蒼大は一途に好きな人を想っているという事実が胸をよぎり——昔の苦い記憶を思い出した。
中学の卒業式の日。ずっと片思いしていた人から告白されて、付き合い始めた。
夢みたいだと思った。私は女子高、彼は共学の高校に進み——1カ月もしないうちに彼からの連絡が途絶えがちになった。
直接会って話したくて、約束もせず学校帰りに彼の家に向かった日、家にたどり着く前に彼を見つけてしまった。
公園のベンチで女の子とキスしている彼を。
しかも、唇が離れてこちらを向いた相手の顔は、私の友達だった。同じバレー部で、何度も蒼大を見に付き合わされた子。仲良しだったんだよ? かなり。
2人が私に気付いて声をあげたから、強がって、凄く強がって、先に別れを告げて走ってお家に帰った。
彼氏と友達両方一気に失った苦すぎる思い出。
それ以来今度好きになるなら絶対一途な人が良いと思っていた。
蒼大に惹かれているけど、蒼大にはずっと好きな人に一途でいてほしいような複雑な気分。
ダメだな、1人だと色々考えちゃう。
これ以上変な気分になる前に止めておこう。
ベッドをそっと抜け出し、冷たい水をパシャパシャと顔に当て、目を押さえた。
よし!気持ちを切り替えて、小屋の探索しよ!
昨晩はお風呂と睡眠が優先だったからじっくり小屋内見学。
まだ建てられて日が浅いのか、壁の木材は光沢のあるダークブラウン。木製の家具もピカピカで真新しい。
ホコリも無く綺麗に掃除されているし冷蔵庫の中は卵やパン、例の牛乳が入っている。
待っていたら近いうちに異世界人に会える可能性大!
冷蔵庫とドアを閉めて、ふと視線を上げると、冷蔵庫の上の部分にもひらがなで「れいぞうこ」と書かれたプレートがあるのを発見した。
気になって調べると、キッチンのコンロにも「こんろ」
洋式トイレのタンク横にも「といれ」
明かりのスイッチにも「でんき」
どう考えてもあのフワフワ浮く光の玉は電気じゃなさそうだけど。この世界、謎は深まるばかり。




