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蹴り飛ばしたイケメン不良男子と異世界トリップしたら、実は3年間私に片想いしていた人でした。  作者: ハラペコWASABI


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弾ける青春

 洞窟を後に獣道を延々歩いて早数時間。休憩しようと座ると現実と目が合った。ペットボトルのお水は約半分よりちょっと下。


「お水見つけ……」

「水見つけねーと……」


 2人同時に言葉を発したので、隣に座っている蒼大と顔を見合わせ頷いた。


 この状況じゃ、心も一つになるわ。

 相変わらず高い気温。まだなんとか耐えられるのは木陰が優しく太陽から守ってくれているから。そう考えると森の中で良かった。


 なんて、目を閉じまったりと考えていたら蒼大の叫ぶような声が聞こえた。いつもと違う緊迫した声。


「七海、立て!」


「え?」


 慌てて目を開くと、飛び込んで来たのはそこまで大きくない猪のような動物の姿。顔にはとても立派な牙が生えている。

 その動物はあろう事か獣道をこちらに向かって猛突進して来ていた。


「イノシシ?!」


「分かんねーけど好戦的過ぎるだろ!」


 叫んだ蒼大は棍棒を手に持ち立ち上がる。私も慌てて立ち上がり、避ける様に横に移動した。


 牙を剥き真っ直ぐ突進して来た動物はあっという間に目の前に。蒼大は怯む事なく足を一歩踏み出し、棍棒を振りフルスイング。


「おらぁぁぁ!舐めんじゃねーぞ! 」


 野球経験者なのか、絵に描いたような綺麗なフォーム。その姿はまるでパワーヒッター。そして、ドスの効いた声。

 あまりにも優しくて忘れてたけど蒼大はヤンキーだった!


 振り出された棍棒は動物の顔面に強ヒット。当たりどころが悪かったのか木に激突してピクリとも動かない。

  

 一瞬だったけど突然の事で胸がドキドキ。力が抜けヘナヘナと座り込む。


「大丈夫か?」


「大丈夫、ビックリしすぎちゃっただけ。倒してくれてありがとう」


「ああ。見た目より弱っちくて良かった」


 あの立派な牙でグサリとやられていたら確実に終わっていた。もし1人だったら牙の餌食になっていただろう。


「蒼大がいてくれて本当に良かった!」

  

 心から思い蒼大を見上げると、目を細め満面の笑みで嬉しそうな表情(かお)

 さっきのドスを効かせた蒼大はどこへやら。

 野生動物と言う脅威が出たのに何がそんなに嬉しいのか分からないけど、この顔は見惚れちゃいそう。


 「牙が突然変異した猪かな」


「分かんねーけど豚にも見えるな」  


「じゃ間をとってイノブタって呼ぶ?」


「ん」


 なんて話しながら、蒼大は力尽きたイノブタを特攻服に包み背中に担いだ。


 食料にしようぜと言われた瞬間は怯んだけど、私達も生きなければならない。


 覚悟を決めて歩き始めて早数時間。昨日と違って辺りが薄暗くなっても今日は洞窟が見つからない。


 ちょこちょこ休憩も挟んでペットボトルのお水は残り三分の一くらい。


 次第に辺りが暗くなり不安が広がる。と、蒼大がピタっと立ち止まりラッキーアイテムバックから懐中電灯を取り出した。


「蒼大のお母さんは占い師を超えた神だと思うの」


「ハハっ!そんな冗談が言えるならまだ大丈夫そうだな」

  

「冗談じゃないのに」


 笑いながら差し出された手に首を傾げる。


「何?」


「手」


「手?」


「暗いと危ねぇから」


 胸がドクンと高鳴る。つまりアレだ。暗いから手を繋ごうって事!


 変に意識しちゃってどうしようって迷ったけど、昨晩洞窟から見た景色を思い出すと確かに危ない。


 街灯もないし完全に陽が落ちたら真っ暗闇で足元も見えない。


 転んだり、イノブタに襲撃されてもし蒼大とはぐれたら死しかない。


 そっと自分の手を差し出すと緊張からか胸のバクバクが凄い。


 指先が触れ合うと蒼大がしっかり握り返して来て。


 心臓が弾け飛んだ。


  神様、私の全身が心臓になったみたいです。大丈夫でしょうか?


 なんて心の中で神様に問いかけるほど身体中熱くてバクバクしている。繋いだ手からこの緊張が伝わっているのか、蒼大も無言で歩き続けている。


 でも無言で良かった。緊張しすぎて今話しかけられてもまともに答えられる気がしないもの!漫画だと「ひゃい!」とか言っちゃう感じ。

 

 それにしても噂って凄いよね、女嫌いで有名だったのに一緒に過ごしていると全然違うってわかる。


 危ないからって小石を避けたり手を繋いでくれる優しさの持ち主。女嫌いだったら絶対しないでしょ。


 蒼大ファンだった皆、私は興味ないとか言ってごめんなさい!外見も中身も超イケメン男子でした!


「七海」


「ひゃい!」


「とりあえず今日はもうこの辺で休むか?」

 

 蒼大の言葉に歩きながら辺りを見回す。

 薄暗かった森は闇に包まれ、風で揺れる葉の音と私達のざくざくと歩く足音だけが聞こえてくる。


 道筋を照らす懐中電灯の光の空間だけ存在しているような感覚に陥るけど、洞窟みたいに周りを囲っている場所はなく、出来るのはせいぜい背中を木の幹に預ける事くらい。


「やめとこ。せめてもう少し身を守れそうな場所を探そう」


「怖いか?」


「ううん。それも少しはあるけど、きっとこんな場所で寝たら蒼大がまた一晩中起きてると思って」


「う」


「ほら、やっぱり!俺が起きて見張っとこうって思ってたんでしょ?次行こ次!」


「大丈夫なのか?身体辛くねぇ?」


「辛くないよ。私より蒼大に休んで欲しいし!もうちょっと安心できる場所探そ?」


「……気遣ってくれてありがとな」


「お礼を言う事じゃない!それより、今日は絶対寝てよ?約束だからね」


「お、おう」


「何その自信なさげな返事」


「厳しくね?」


「厳しくない!」


「厳しー!」


 さっきまでの緊張はどっかに吹っ飛んで、葉音と足音だけ聞こえていた空間は私達の笑い声が響く森になった。


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