第一楽章〜最初のブレス〜
この前も話した通り俺、卜音楽叉は優等生と腐男子の2つの仮面を付け替えて生きている。世間にこんな事実が漏れでもしたら一大事だ。何でって、日本中で知らない人はいない程の音楽家の倅が女性向けのアニメに興じてるなんて知れたら一族の風評被害も甚だしいだろう。だから、このことはトップシークレットなのだ。……が、唯一1人にだけバレてしまった。
「待たせたな、楽叉!」と眩しいくらいの笑顔で俺の肩をバシバシ叩く男子生徒。
こいつは河島夜宵。三度の飯よりギターを愛する、所謂ロックバカである。そのアニメとはほとほと縁のなさそうなこの男が、なぜ俺の秘密に気づいたのかと言うと、高校入学当初、週末に渋谷をうろついていると偶然見つかってしまった。当然学校モードではない、オタクモードだから、バレることはないと思ってたがアイツは難なく勘づいたらしく、執拗に問い詰められ、最終的に押し切られる形で打ち明けてしまった。
俺の苦悩なんか蚊ほども知らないくせに「隠したい秘密は誰にでもあるよなぁ」とムカつくことを言い放ったが、見方を変えたら弱みを握られている状態だし、ちゃんとした交友関係なんて持ったことないから内心は飛び跳ねそうなぐらい嬉しかったし、何だかんだで仲良くさせてもらっている。
「待ってないし力強すぎんだよ!お前は!」
「悪りぃ!ったく、素のお前だけでも充分モテるぜ?可愛いから。」
「俺はそんなこと一言も言ってない!その馬鹿力はどこから来るんだって話だ!」
「少しくらいあった方がモテるだろ?」
「どこが少しじゃ……」
本当にコイツがギタリストを目指してんのか、バケモノになりたいのかわからない……一見細身に見えるその身体にどれだけの怪力が眠ってるのか気づいてないのか⁈俺の正体の前にまずこっちだろ!
俺はまるで獲物を満足気に貪るかのごとく弁当に喰らいつく夜宵を睨む。
俺の目線は気にも止めずに咀嚼を続ける彼は口内の物をひとしきり飲み込むと「もうすぐあの時期だな……」
と呟いた。
当たり前だが今俺達は学校にいる。そして2人の視線の行き先は数人の女子が何やら楽しそうに会話をしている姿。そう、もうすぐ全国の男子高校生たちがソワソワし始める、バレンタインの日がやってくるのだ。
「お前は願わなくてもチョコやらクッキーが降ってくるもんなぁ?」と夜宵がニタニタしながら俺を見やる。
「煩い……何百と来て毎年大変なんだぞ!極秘で分けてやってるんだから文句言うなよ。」
学校は毎年この日になると誰が最初に卜音楽叉にチョコを渡すのか、女子たちの熱き戦いが始まる。
俺のロッカーや下駄箱には手紙とともに甘味が積み込まれて、そのせいで男子達からは少々疎まれる。色んな意味で厄日なのだ。そんな何百ものハートを消化しきれるわけもないので大半は大喰らいのコイツに任せてる。あくまで仕方なく。
「へーへー、君が欲しいのは一個だけだもんねぇ、早乙女の。」
早乙女。その単語で反射的に感情が暴走してしまう。
「そっ……そんなわけないだろ!」
俺の言葉に教室が静まり返る。間が悪いのを堪えて椅子に座り直す隣には、また悪びれる様子もなくニヤつく大男がいた。
早乙女というのは同じクラスの女子、三春のこと。
簡単に言うと俺が一目惚れした相手だ。素の俺が。
「何で嫌がるんだよ?早乙女も張り切ってたぜ?」
「お前は何もわかってない!彼女が俺にチョコを渡すことが出来たとしても、2人のためにはならない!」
俺にチョコを渡そうとする女子は彼女以外のほぼ全てだ。試しに成功しても、 もしくは俺が彼女のだけを受け取るなんてしたら、彼女は失恋した女子の根深い怨念をもれなく全員分背負い込む事になって陰湿ないじめに発展してしまうやもしれないのに……!そんなこと、好きだからこそできないんだよ……
「あー!またお前、お得意の『アニメのシチュエーション考察』だな。二次元とごっちゃにすんなって!それにお前だってもらいたいだろ?」
と夜宵がわざとらしくポンと手を叩いた。
「お前はモテるということのデメリットを知らないからそんな呑気な事が言えんだろ!……それに……」
「それに?」
「……彼女が好きなのは『僕』なんだよ……『俺』がこんなガチなニジオタだなんて知ったら幻滅するに決まってる……」
本当のことはどうしても言えない……世間に一生隠さないといけない。素直になりたくても嘘をつくしかない俺のジレンマを夜宵は分かってない。
「なぁ、主人公って補正かかってんだろ?」
突然、夜宵が思い出したように言った。
「何の話だよ……」
「お前の人生はお前のものだ。だからハッピーエンドの補正はお前にかかってんじゃねーの?もっと感情的に行こうぜ?自分の気持ちに従ってたら風はお前の方に味方する!」
今までの話を何一つ聞いてない。バカかよ……でも、その能天気なロック魂に何度助けられれば気が済むんだろうな。
自分を変えたいって言ってたくせに何ビビってたんだ!
もう消極的(pianissimo)な思考はやめないと、何も始まらない。
第一楽章は終わった!これからは自分で自分の『運命』を変える!
「わかった、俺やってみる!」
「その覇気があればきっとやれるって!景気付けにセッションでもするか?」
「いや、大丈夫!」
「じゃ、ゲーセン行くか!……悪りぃな、お前と出かけたいだけで。」
「全然。むしろありがとな、じゃあ放課後に。」
「おう!」
結局景気付けみたいになってしまったが男2人でゲーセンに夕方まで入り浸った。
なんだか吹っ切れた気がする!
バレンタインには間に合いそうもないけど、俺が最初の決断をできるのはそう遠くないかもしれない。
河島夜宵
一人称俺
身長180cm
体重85kg
特技ギター
誕生日5/15
楽叉のクラスメイトで三度の飯よりギターが好き。というかギターが恋人。
そんな一面がある一方、大喰らいでギターを弾いている時間の次に至福らしい。この時点で矛盾しているが本人は気にしていない。
性格は超能天気で楽叉が言うには「流し向きな性格」。大抵のことはとやかく言わない、というかちゃんと聞いてない。そんなネタキャラ気質が買われ、クラスのムードメーカーとなっている。
楽叉の素の性格を唯一知っている人物。とはいえ揺するとかそういう思考はないけどなにかといじってる。
週末は楽叉とセッションしたり、渋谷に着いて行ったりしている、(暇つぶし)
なんだかんだで彼のことは親友だと思っていて、毎日のように助言という名の道標を与えている。
無自覚だが、凶力な怪力の持ち主、
台詞見本
「俺はギターしか見てないから恋愛とか興味ねーや。」
「楽叉、セッションしようぜ!新しい技がある!」
「ロックに行こうぜ、楽叉!」.
「なんでみんな俺と握手しねぇんだろうなぁ……嫌いってわけじゃなさそうだけど……」




