第三楽章〜恋がしたい!〜
「俺に告白なんて……出来んのかな?」
時刻はAM5:00。何人かの社会人なら目覚めていても別におかしくはないが、冬だからか太陽はまだ深い眠りについていている。何故そんな時間に起きているのかというと、ただ簡単、ド緊張してるだけ。バレンタインなんかに告白しようものなら、俺と彼女の本心はモロバレしてしまう。だから昨日の夜、夜宵に『明日、決行する』とだけ連絡したのだ。言ってしまった言葉は口には帰らない。昨日はアニメ鑑賞を取りやめてゆっくり気持ちを創っていたにもかかわらず、まだ心臓がバクバクしている。とても寝息をたてている余裕はなかった。もう既に泣きそうである。
そろそろ、家の使用人たちが起きてくる時間だ。
その頃俺はまるでオバケを怖がる子供のように頭から布団を被っていたのだが、一向に胸のノックは止まない。
朝食もパン一個しか喉は受け付けなかった。まぁ、毎日そんな感じだから、家の中はなんとか悟られずに済んだ。
食べて少し楽になったのか、感じるぐらい大きい鼓動は止んだ。
制服に着替えて門を出る。
「お迎えに上がりました、王子様……?」
目の前には、どこで覚えたのか分からないが、意外とマシな執事用の会釈をしている夜宵が立っていた。
「何でここにいんだよ!」
「どうせお前のことだから、趣味やってる暇ないぐらいバカみたいに緊張してんのかなと思って……来て正解だな。」とこちらに微笑む。
「何言われてもやるからな……!」気まずいのを押し堪えて反論する。
「おっと、もうやめる……とか言い出すのかとwww」
「やめねぇし……」
全く、迎えに来たなら気遣って何も言わないとかあるだろ!本当に無神経な奴だ。
「おわっ!」下駄箱についた瞬間にやよいが声を上げる。
「どうしたんだよ?」
「いや……お前の内ばき取ってやろうと思ったらこんなのが……」
「……?」
手渡されたのは封筒。……ヤバイ。
一応人目を気にして物陰に隠れて封を開ける。
『卜音楽叉様へ
大切なお話があるので放課後、空き教室で待っています。
早乙女三春より』
黙読していた俺はしばらく、文の内容を理解できずにいた。
「ありゃ、これはあっちも死ぬ気で来てんな……」
これは夜宵も予想外だったらしい。まさか同じことを考えてたなんて……
俺は手紙の真意が気になって授業なんか気が気じゃなかった。
そして昼食は始まるまでに俺は朝より鼓動が速くなるのを感じていた。
「なぁ、なんで泣いてんの?」と夜宵が若干説教を仕掛けるようなトーンで訊いてきた。
泣いているつもりはないが勝手に溢れてきているらしい。
「だって……彼女はあんなに本気なのに……『俺』のこと知ったら……」
そうだ、彼女は死ぬ気であの文章を書いている。それなのに俺は腐男子であることを彼女に打ちあけようとしている。その行為は彼女の努力を踏みにじるに等しい。
夜宵の口から言葉が溢れる。
「……じゃあ、アイツに負けていいのかよ?」
アイツ。多分表の『僕』のことだ。
「……負けたくない。でも……」
「やってもないのに決めつけんな!一番大事なのはお前が、何をしたいかなんだよ!」
俺は何をしたい……それは前から決めてたことだ。俺が変わるには『決行』しかないんだ!
「俺は……」
「恋をしたい!」
やっと言えた……夜宵も「それで良し!」と安心した様子で呟いた。
放課後、決行。もう腹は決めてる。嫌われたっていい、俺は本心を伝えるだけなんだ。
空き教室で待っていた彼女は「ごめんね、こんな時間に呼び出して……」とはにかんだ。
「その話のことなんだけど……『僕』は承諾できない。ごめん……」と彼女の顔を見ないで一気に言い放つ。
きっと前には涙が浮かんでいるだろう。仕方ない。
「でも……!『俺』なら全然OKだから……!」
今度はちゃんと相手の顔を見て伝える。見えた顔は疑問の色に満ちていた。
「白状すると、普段の俺は嘘なんだ。本当はコミュ障で語彙力皆無で、二次元とかネットに入れ込んでて、グッズ買い漁ってる弱気な腐男子高校生だけど……そんな……なよなよした俺で良ければ……!」
気づけば早口で言ってしまっていた。
「……って、良かないよね……」
もう全部、醜いところは100%出した。
俺の語彙で言えることは言い尽くした。
その後の早乙女さんの行動は目に見えている。俺としてはドン引きでも、ビンタでも、理想とのギャップに泣き出したって洗いざらい受け入れるつもりだ。でも、いずれのルートでも決まった未来が来ることになる。それは【恋の終わり】。アウトだったとしても救済措置なんかない。俺の肥大しすぎた恋心が灰になってしまうのだから。2人の関係は冷え込んだまま、もう今には戻れないかもしれないし、打ちひしがれて金輪際恋なんか出来ないかもしれない。
そう考えると解答を知るのが怖くなってくる。しかし、決めるのは彼女だ。さぁ、正解を教えてくれ……早乙女さん……!
「もちろん、喜んで!」
「へ……?今、何て?」
素っ頓狂な涙声を上げてしまうのも無理はない。
完全にNOを突きつけられると思っていたから。
「だから、OKってこと!はぁ、嘘で良かった!キザでナルシストじゃなくて!じゃあ、お返しにこっちも白状するね。私、卜音君のこと、先に振っとこうと思ってたんだ。自分大好き人間と付き合うなんてごめんだから。でも、本当のことわかったから貴方のこと本気で好きになれそう!」
なんてこった……『僕』だったら振られてただって⁈
「ちなみに……アニオタ……腐とかは……?」
「ん?私もアニオタだし、腐は……好きじゃないけど、地雷じゃないかなぁ。」
その事を聞いた瞬間に尻もちをついてしまった。
「卜音君⁈」
「あはは、安心したら力抜けちゃって……それと楽叉でいいよ。あと、この事は内密にしといてもらいたいんだけど……」
「私も秘密にしておくつもり!だってクラスの目線怖いし。私も三春でいいよ!これからよろしくね、らくさん!」
「らくさん?」
「だって、名前で呼んだらバレちゃうでしょ?」
「あぁ、こちらこそよろしくね、三春!」
こうして俺たちの秘密の関係が始まった。
「な?補正かかってたろ?」校門でも夜宵が待っていた。
「うん!って言うかなんで知ってんだよ!」
確かに校門で待ってるとは言ってたけど、一部始終は知らないはず……
「撮ってた。全部な!」
「なっ!消せよ!」
「ウシシッ、心配すんなって。お前に記念として送ったらすぐ消すからさ。」
「本当だろうな?」
「おう!」
コイツはどこまで無神経なんだよ……ムード台無しじゃねぇか……でもそんな事はどうだっていい。告白が成功したんだから!今日はアニメで祝勝会だな!
夜宵と別れて、家の門を開けると、執事の橋下が声をかけてきた。
「坊ちゃん、何やら顔が綻んで居ますが何やら良いことでもお有りに?」
「別にぃ?」多分まだニヤニヤした顔で濁す。
「左様ですか。実は坊ちゃんにお伝えしなければならない事が……」
「何だよ?」
「ウィーンにいらしたお兄様が日本に週末にお帰りになると連絡がありまして……」
「お兄様が⁈」
今まで会ったことないけど、堅物だったらどうしよう……素がバレちまうじゃねぇか!




