01 採用試験の日(3)
本文を書きながら設定を考えてました。
冗長ですみません。
物語的なものはもう少し先になります・・・
「この後に採用試験を行いますが、試験は作業を行う端末と同じものなので、ゴーストの見本もそちらでお見せします。
ここまでの説明で一旦区切りとしまして、採用試験を受けるのをやめる方はお帰り頂いても結構です。
しばらく考えたいという方は、申し出ていただければ次回の募集の際にまた連絡するようにします。」
「ここまで説明した内容は、投資家向けのIR説明会や業界紙のインタビューなどでもお話しているものですので、特に守秘義務等は発生しません。
ただし、採用試験以降の内容については、写真の撮影やデータの持ち出し等は一切禁止しております。
ご家族にバイトの内容を説明する程度は問題ありませんが、SNSや掲示板等での投稿も、内容によっては法的責任を生じますのでご注意ください」
「では、本日採用試験を受けていかれる方はこちらへどうぞ。
それ以外の方は、受付へ…」
さっさと立ち上がったのは先ほど質問した男、それに村雨と隣の例の女性、あとは後ろの方に座っていた割と背の高い女性が1人で、合わせて4人。
軽い質問を一つしただけだったが、その声がハスキーな低音のアニメ声だったために前列に座っていた男の何人かが振り返り、姿を見てからちょっと首をかしげていたのが印象に残っている。
残りの4人は、ネット小説サイトでの感想の話で心が折れたのか、自分のゴーストを提供するという話に驚いたのかは分からないが、少なくとも今日は引き上げていくようだ。
スタッフの後ろに従って、四人はオフィスエリアの奥の開発セクションに向かう。
「皆さんは、この社内ではハンドルネーム的なもので管理させていただきます。
お互いに自己紹介をするのは自由ですが、会社側としては就業中に本名を扱うことはしません。
苗字部分はゴーストと共通で、本人は名前にオリジナルであることが連想できるものを、あとのゴーストには数字的な名前を付けます」
「ちなみに、私はハジメ・スザキです。
数字とスザキの名前を持ったゴーストを見かけたら、それは私のゴーストということです」
「本人の名前は、採用試験の最初に入力しますので、今から考えちゃってくださいね。
浮かばなければ、あだ名と01などのナンバリングくらいで問題ないですよ」
いやいやいや、それは悩むだろう!?
村雨は深刻な問題に対面していた。
ハンドルネームの設定。
しかもリアルで対面済みのメンバーの前で。
いや、このメンバーについては特に何かが発展する気配はないが、この会社はVRやネット小説やマンガを軸に集められた人間の集合体だ。
冒険やロマンスを求めている人種のるつぼと言ってもいい。
社内や他のグループのバイトの中には、何かの関係が発生する可能性を秘めた人物が存在する可能性もあるだろう。
思わず二度、「可能性」について言及するほどに、村雨の頭脳は回転していた。
村雨は、悪い人間ではない、いやむしろ良いヤツではあるのだが、残念な何かを克服するにはまだ足りないものがいろいろあるのであった。
「んで、君らの名は?俺はカタカナでタチカワって決めたんだけど」
前を歩いていたイケメンが振り返りながら問いかける。
振り返るだけでなんかカッコいい振り付けみたいだ。くっ。
「私はミシマ。そうね、私もカタカナ表記にしておくわ」
「漢字で川原ってことにします」
残る二人も即答である。
え、ちょっ、みんな早すぎるだろ!
タチカワ氏と川原さんの視線がこちらに向かう。
ミシマさんは前を向いたままだ。なんか俺の扱い軽くない…?
いやそれは今はどうでもいい、俺の名は、俺の名は…
「じゃあ、俺はハ、ハルサメで…」
誰もなにも言わずに歩いていく。
何だよ、わざわざ注目したなら突っ込むなりしろよ!
学校の教室くらいの大きさの部屋に、ディスプレイモニタやヘルメット、グローブにたくさんの計測機器が配置された机が並んでおり、数人が装置を身につけて作業をしている。
いかにもサイバーな光景に、村雨はニヤニヤとした表情を殺せずにいた。
スザキはその内の一人の女性の近くに歩いていき、村雨たち四人を呼び寄せる。
「試験の前に、ゴーストがどういうものかお見せしますね。
こちらの女性はギルガメシュ・ジオリジンさんです」
そんな名前もアリなのかよ!と衝撃を受けたのは村雨だけだったようで、他の面子はふんふんとうなずきながら興味深そうに装置やディスプレイの中身をのぞきこんでいる。
スザキが指先を少し不思議な形で動かすと、ギルガメシュと紹介された女性は何かが聞こえたかのように反応し、数秒動きを止めた後にヘルメットを外し始めた。
二十歳少し前くらいの、キュートな感じの女の子だ。
そばに立っているタチカワの顔を見ると、ちょっと頬を赤らめ、次に、頭や顔に慌てたように手を当てる。
どうやら、乱れた髪の毛を整えたり、おでこについたヘルメットの跡をケアしているらしい。
「スザキさん、来るならもっと早く報せてくださいよ!
急に目の前に人がいたらビックリするじゃないですか」
「いつもはこんな感じで文句言わないじゃないですか」
生ぬるい視線を送るスザキ氏に、村雨も何か強い共感を覚えるのであった。
呼吸を整えたギルガメシュは、改めて挨拶から始める。
「初めまして、ギルガメシュ・ジオリジンです。長いのでギルと呼んでください。
私も皆さんと同じでこの会社でゴースト関係のバイトをしてます。
先輩面して解説しますが、半年くらいのことなので、至らないことがあれば気軽にご指摘ください」
最初の印象と違って、いたって大人の対応である。
「私の場合、ゴーストの出来があまり良くなかったんですけど、それはそれでゴーストの説明をするのにちょうどいい状態だったみたいで、シミュレータで稼働させるより本体の私とセットで解説っぽいことが中心業務になってます」
手慣れた感じで説明が続く。
程よいジェスチャーの愛くるしさと爽やかな笑顔で、そばにで聞いているだけで幸せな気分になってくる解説者である。
村雨の口元はますます緩んでいた。
「それはそれとして、私なんか単なるいちバイトに過ぎないのに、取引先とか役所の偉い人相手の説明までさせられてて、これってどーなんですかスザキさん、って感じなんですけどね」
ため息をついて見せるが、そんな仕草もキュートすぎるぜギルさん!というのは村雨の心の声である。
「さて、それでは肝心の、ゴーストのお話に入りましょうか」
次章でいったん違う場面になります。




