第七話 遠足。
僕は明日も仕事だというのに、夜遅くまで机の上の手帳に夢中になっていた。
「猫神様…猫神様…。」
そう、ぶつぶつと言いながらページをめくる。
手帳の半分ほどをめくった時に、突然現れた。
「あった。」
手帳には書かれていた文字はこうだ。
・猫神様は求めると去ってゆく。
・妖怪より偉い?。
・猫神様を無理矢理乗せても意味は無い。
・化け猫とは違うらしい。
・生態は猫と一緒。気まぐれ。
・傘おばけは、お喋り。
以上が手帳に記されていた。
僕は読みながら「ふふっ」と笑ってしまった。
どうやら祖父も猫神様に招待された事がある様だ。
メモの取り方や、内容が僕と似ている。
気になったのは、
・化け猫とは違う。
・傘おばけは、お喋り。
この2つだ。
「どうやら、おじいちゃんの裏の世の案内人は傘おばけっぽいぞ。」
そして、化け猫とは違う。
ここは確かに気になるところではある。
僕の目的が3つ増えた。
まずは、おじいちゃんのお墓参りに行く事。
二つ目は、おじいちゃんにあった事がある妖怪に会う事。(今のところは《傘おばけ》が有力。)
そして、化け猫に会う事だ。
(楽しみが増えたな。)
そう思い時計を見ると、既に日付を回っており、僕は慌てて就寝した。
おじいちゃんのお墓は、静岡県にある。
富士山の麓に位置する場所だ。
おじいちゃんとおばあちゃんの2人が眠っている。
仕事が終わった後に、また自転車を出して実家に向かおうとすると、同僚の女の子に声をかけられた。
「毎日自転車通勤なんですか?」
「どひゃ!」
普段会社の人とは話さないので驚いて声を上げてしまった。
「あ、わ、ごめんなさい!いきなりでビックリしましたよね?」
そう謝罪するこの子は確か同い年の隣町の子だった。
「び、…っくりしたけど…全然大丈夫!」
僕はそう言いながらも心臓を抑えていた。
妖怪よりも人間に驚くだなんて可笑しなものだなと思って少し笑ってしまった。
「最近、急に表情が明るくなって雰囲気が柔らかくなった気がするからちょっと気になって…。」
全く意識していなかったが、おそらく猫神様に出会ってから、僕は毎日ワクワクしていたのできっと顔に出ていたのだろう。
「あー。ちょっと旅行に行って息抜き出来たからかな?」
嘘は言っていないが、猫神様の話をしたところで、頭のおかしい奴だと思われても困る。
「そうだったんですね。どこに行ったんですか?」
彼女は聞いてきた。
「京都に行ったんだ。貴船神社と、伏見稲荷大社。」
「神社好きなんですね。」
「神社というより…。まぁでもそんな感じかな?」
説明が難しいので誤魔化した。
「私もそういうの好きなんですよ。少し違いますけど、景色の綺麗なところとか…。富山県の雨晴海岸オススメです。良い写真撮れますよ!また、どこか行ったら教えて下さいね。」
そうして、僕らはそれぞれの帰路についた。
昨日に引き続き今日もも実家に帰る。
一応だが、家族にお墓参りに行こうと思っている事を伝えた。
お母さんは、
「良いじゃない。お義父さんお義母さんも喜ぶわ。」
妹は、
「私も行きたーい。」
と言ったが、何かを察知したお父さんに止められた。
「部活もあるし、バイトもあるだろう。携帯代は自分で払う約束忘れたのか?俺も母さんも出さないぞ。」
そう言って妹はぶすっとした顔をして、
「お父さんきらーい。」と言い自分の部屋に入っていった。
「全く。」
そう言ってお父さんは、財布の中から一万円を出して僕に渡した。
「1人で行きたいんだろ?コレ、俺たちからの線香代だ。代わりに挨拶して来てくれ。」
「うん。ありがとう。分かったよ。」
僕はお金を受け取り、大事にしまった。
金曜日の仕事終わりにまっすぐ家へと帰り、支度する。
今回もビジネスホテルに泊まる事にした。
(うーん。仕方ない。今回はちょっと疲れるけどバイクを出すか。)
僕は車とバイクの免許を持っている。
車自体は持っておらず、通勤は自転車。
バイクは車より安いと言う理由で買った物で、普段はレンタル倉庫に眠っている。
(まぁ、たまには動かしてあげないとね。)
そうとなれば、不具合が無いかチェックしなければならない。
家を出て自転車に乗り、レンタル倉庫へ移動した。
到着して、倉庫のシャッターを開ける。
HONDAの《FTR223》が表れた。
(やあ、久しぶり。)
僕は倒さないように気をつけながらバイクを出した。
乗ってきた自転車を倉庫に入れて、鍵を閉める。
(さてと。拗ねたりしてないよね?)
そう思いキーを回しセルを押す。
流石はHONDAの技術。
少しだけかかりは悪かったが、ちゃんとエンジンは吹け上がった。このバイクを買う時にショップの店員さんが「頑丈すぎて飽きる」と、言っていたのを思い出した。
暖気をかけながら、僕はタイヤやチェーン、サスやランプのチェックをする。
(うん。問題無さそうだね。)
暖気が終わったので、家まで乗って帰った。
アパートの駐輪場にバイクを入れて、身支度の続きを始める。
節約のため今回は行きは下道。帰りは高速道路というプランだ。
海沿いを走る道を選び、霊園までの道は5時間もかかる。
しかし、バイクに乗る事自体は嫌いじゃ無いため、むしろワクワクしていた。
(何だか、少しづつ趣味が増えてるような気がするぞ。)
以前感じていた、「人生がつまらない」
と言う気持ちは、いつのまにか消えていて、
今は、特に「楽しい」や、「やりたい事」があると言う訳じゃなく、
「気になる事を確かめる。」ぐらいの気持ちなのだが、心は満たされている。
素直にこの気持ちは大事にしたいと思った。
荷造りが終わり、就寝する。
明日は昼頃に霊園に到着予定だ。
その後に、県を跨ぎ、山梨県の富士吉田市というところにお邪魔する。
西裏通りという場所に行く予定だ。
ここは穴場の富士山撮影スポットで、レトロ感満載の路地裏だ。
飲屋街らしい。
お酒は好きなので、それも楽しみではある。
遠足の前日の様なワクワク感でなかなか寝付けなかったが、次第に眠気が襲ってきて気づけば夢の中にいた。
明日は晴れみたいだ。




