第八話 ハチワレ。
快晴の青空にキラキラと太陽の光を反射する海。
太平洋から吹く風が潮の香りを運んでくる。
僕はバイクで静岡に向かっている。
途中で見晴らしのいい海岸が出てきたので少し休憩も含め停まった。
気温はかなり暑く、35度を記録している。
「あっち〜。」
そう呟きながらアイスを食べた。
ちょうど家から霊園までの中間地点で、
浜名バイパス。国道1号線を少しズレたところだ。
久しぶりに乗ったバイクはとても楽しく、ここに来るまでがあっという間だった。
「ちょうど半分か。これなら心配していたほど疲れは無さそうだ。」
道中はとても快適で、土曜日だというのに意外と道が空いていた。
たまたまだとは思う。
霊園にも大体時間通りに到着し、管理事務所の中に入り、墓参りに来たと伝える。
お花を買って、手桶をレンタルし事務所を出た。
おじいちゃんおばあちゃんのお墓は少しだけ距離を歩くのだ。
(もっと近くに建ててくれても良かったのに。)
影もない霊園を墓石に囲まれながら歩いた。
区画毎に分かれていて、僕が行くのはFブロックになる。
区画の仕切りにはアスファルトの道があり、その端に花壇がある。
木や花が咲いていて、とてもいい香りと線香の香りが漂っている。蝉の声がうるさくて暑さが加速した。
お墓の前まで来た。
「さてと、じいちゃん、ばあちゃん久しぶり。まずは掃除だね!」
僕は半袖を肩まで捲り、頭にタオルを巻いて、手桶に水を入れ、リュックからタワシを出して、お墓の掃除を始めた。
シャカシャカとタワシの毛が石を擦る音が心地良い。文字が彫ってある所にも汚れが溜まっていた。
「だと思って買ってきたんだ。」
僕は新品の歯ブラシを取り出して、細かいところも掃除をする。僕は日傘を刺したり、小型の扇風機などを使ったりして、
こまめに水分補給をしながら掃除を続けた。
バシャー……。
手をパンパンと叩き掃除が完了した。
「うん!綺麗になった。」
どちらかと言うと、まだ新めの墓石なのですぐに綺麗になった。
僕は、お花を添えて蝋燭を立ててマッチで火をつける。
線香を取り出そうと地面に置いたリュックの方を見た時に、視線を奪われた。
猫がこちらを見ていた。
「………猫神…様…?」
白黒のいわゆる《ハチワレ》模様の猫はこちらをじっと見ていた。
ハチワレの目はとても綺麗で、吸い込まれる様に目が離せなくなった。
(多分この子は猫神様なのでは無いだろうか?)
少し前に一つ目小僧の言っていた、
「猫神様はなんとなく分かる。」
の意味を多分…。多分、理解した。
(乗るかな?)
そう思って、乗りやすい様にしゃがんでみるが、
反応は無い。
角度を変えてみたり、近づいてみたりするが、全く動かずにじ〜っとこちらを見返すだけだった。
(思い違いだったかな?)
そう思って墓石の方に戻り、線香に火をつけて手を合わせようとした時、ハチワレが乗ってきた……。
しかし、今回乗ったのは、僕では無い。
おじいちゃんとおばあちゃんのお墓の上に乗ったのだ。
空気が少し変わった気がする。
先ほどまで聞こえていた蝉の声が、遠くなった。
まるで、空気が止まった様なそんな気がした。
僕はしばらくキョトンとしたが、なんとなく意味を理解した。
「なるほど。今日は僕じゃないみたいですね。」
そう言って僕は妖怪たちがしていた様に手を擦り合わせ
「ありがたやありがたや。」
と頭を下げる。
ハチワレは相変わらず、じっとこちらを見ている。
僕はお墓を見ながら話しかけた。
「おじいちゃん、おばあちゃん。久しぶり。なかなか来れなくてごめんね。今日はおじいちゃんに話したい事があって来たんだ。」
僕は手帳を取り出して見せた。
「多分、今見えてたと思うけど、僕ね猫神様に会ったよ。招待されたんだ。おじいちゃんも行った事あるよね?多分。」
ハチワレはまだおとなしく座ってこちらを見ている。全く動く気配がない。
「素敵な世界だよね。僕なんてもう3回も招待されたんだよ。おじいちゃんは何回招待されたのかな?僕ね、今すごく楽しいよ。毎日ワクワクしてるんだ。今度はどこに行こうかとかね。一つ目小僧さんと提灯お化けさんと、狐の妖狐。正確には気狐らしいけど…にもあったんだ。次は誰に会えるんだろうね?……また、時々報告しに来るね。」
そこまで言うと、ハチワレは伸びをしはじめた。
その瞬間に、おじいちゃんの家の香りが鼻を撫でた。
僕は凄く懐かしい気持ちになり、少し目頭が熱くなった。
ハチワレはぴょんと飛び降りて、僕の足元に来た。
ハチワレがお墓を降りた瞬間に、蝉の声が聞こえて来て、じわじわと空気が動き出した。気がする。
僕はハチワレに猫用のチューブタイプの餌を出してあげた。
「おじいちゃんに会わせてくれたんだね。ありがとうございます。」
そう言って頭を撫でた。
ハチワレがご飯を食べ終わるまで待っていた。
そうして、ご飯を食べ終わると、
「ナーン。」
と一鳴きしてハチワレは墓石の影へ消えた。
お墓の方を向いて、
「おじいちゃんおばあちゃんまた来るね。今日はありがとう。」
そう言って墓地を後にした。
後方から風が吹く。まるで背中を押してくれている様な感じだ。
汗が冷やされて心地良い。




