第四話 提灯。
僕はタクシーで伏見稲荷に到着した。
まだまだ人が賑わい祭りは熱を帯びていた。
「へぇ。意外と人が多いんだな。」
僕は伏見稲荷なんて知らなかったから、道中で調べてみた。京都の東側に位置する場所にあり、
都心部よりちょっと離れている。
なので、勝手にマイナーな場所だと思っていた。
山に造られたような神社で、出店も多いが、商店もなかなかの数だ。
歩きながら幼少期にリンゴ飴を食べきれずにお母さんに小言を言われた事を思い出した。
「ふふ。懐かしいな。」
僕は、今なら完食出来ると思い、リンゴ飴を1つ買った。
(少し、パサパサするけど美味しいな。)
一日中猫神様を探し回ったおかげで何も食べていない事を忘れていた。
坂を登り切ると、外拝殿があり、そのすぐ後ろに本殿が見える。相変わらずの人だかりだが、僕は気にせず進んだ。
(すごい、立派な本殿だ。ところで千本鳥居は、どこにあるんだ?)
そう思いキョロキョロしていると、看板が見えた。
千本鳥居の看板だった。
僕は看板の方へ歩く。
すると、両端に狐の像がある鳥居が出てきた。
僕はペコリとお辞儀して中に進む。
正面に奥宮が出てきた。皆、右手の方に進む。
僕も流れに沿って進む。
それは突然現れた。
大きな鳥居が正面に現れ、そこから人1人ぐらいの感覚で鳥居が続く。奥に行くほど、間隔が狭くなり、鳥居も小さくなっていく。そんな鳥居の頭上の両端に、均一な間隔で赤く光る提灯が連なっていた。
「すごい……。」
そう思った。その時、背後から声が聞こえた。
「可愛い〜何この子〜」
女の人の声がしたが、人が多すぎてよく見えない。
(子供か犬かな?)
そう思って前を見た。その瞬間に、
視界の彩度が上がる。
「え?」
僕の肩にドスンと何かが乗った。
びっくりして確認すると、観光客に餌付けされたのだろうか、丸々太った茶トラの野良猫が座っていた。
「あ、猫神様?」
茶トラの猫はぶすっとした顔でこっちを見てすぐに前を向いた。
なんとなく、「進め」って言っている気がした。
視線を正面に戻す。
朱色の鳥居は、温度を感じるほど暖かな色合いで、夜空とのコントラストが美しく、提灯はまるでシャンデリアのように光を乱反射していた。
周りの人は僕をすり抜けて歩き、色とりどりの浴衣が、お花畑を想像させる。
先ほどまでの騒音も、幼稚園から聞こえてくる楽しげな子供たちの様な声に変わる。
(まるで夢の中だな。)
僕はゆっくりと景色を観ながら散歩した。
しばらく歩くと、一際目立つ提灯が飾られていることに気がついた。
「なんだ?」
そう思って近づいていくと、それは昔、美術の授業で少しだけ習った浮世絵の提灯お化け(提灯お岩)そっくりだった。
「わぁ。こんなところに。」
そう声を上げると、提灯お化けはコチラを見て、すぐに元に戻り、またすぐにコチラに視線を戻した。
「あらま。珍しい。猫神様が人を連れてくるなんて。」
綺麗な二度見をした提灯さんは、僕の近くまで降りてきた。
そして猫神様に頭を下げて、
「ありがたやありがたや。」
そう言った。
(コレは裏の世での礼拝みたいなものなのかな?)
そう思っていると提灯は僕の方を見た。
「アンタ、裏の世は初めてじゃないね。」
提灯さんは言った。
「え?分かるんですか?」
「いやに落ち着いてるのもそうだけど、別の猫神様の香りがするからね。」
「別の猫神様?」
「猫神様ってのはそれぞれ香りが違うんだよ。」
「へぇ。そうなんですね。」
「だから、この猫神様も気を許したんだろうね。」
そうして提灯さんは、僕の肩に座る猫神様を見た。
「僕、今日で2回目なんです。裏の世に来るの。」
「へぇ。そうなのかい。前は誰かに会ったかい?」
「愛知県で、一つ目小僧さんに会いました。」
「懐かしい名前だね。最近は妖怪同士の交流も無くなってきたらからね。ちなみに一つ目小僧は全国に別個体がいるから、そいつらに会ったら教えてあげてね。」
「教えると何かあるんですか?」
「聞いてないのかい?私も含めてそうだけど、妖怪は何種類か別の個体がいるのさ。その個体が認知されたり、別の個体の話を聞いたりすると、妖力が上がるのさ。私たちの生みの親は分からないが、育ち方は1つ。認知さね。」
「そうなんですね。提灯さんのそっくりさんに会ったら伝えておきますね。」
「ありがとうね。猫神様が退屈そうだから歩いてあげな。それじゃ、短い時間楽しんでね。」
そう言ってお化け提灯は、ゆらゆらと元の位置に戻った。
僕は猫神様が後ろを向いていたので、その方向に歩く。
出口の方に向かって歩いていく。
すると、先ほどの狐の像まで戻って来た。
猫神様は狐の像を見ている。
数秒すると、狐の像が色つき始め、そのまま実体化したのだ。
「いや〜猫神様は騙せませんか!」そうして狐の妖怪は、僕の前へ降りた。僕と目が合うと、やはり狐は二度見して言う。
「あれ?アンタ俺のこと見えてるのかい?
」
僕はこくりと頷いた。
「驚いたな。猫神様が人間を連れてくるなんて…。」
「妖狐ですか?」
僕は聞いてみた。
「そうだ。俺は妖狐でも、まだまだ下っ端の気狐さ。よろしくな。」
そう言って気孤は頭を下げてお辞儀した。
僕もお辞儀をして、
「こちらこそ。よろしくお願いします。」
と挨拶をした。
気狐と雑談が始まった。




