第三話 盲目。
僕はメモ帳を見ながら今日あった事に思いを馳せた。
高揚感が未だに収まらない。
最初は本当にビックリしたし、怖かった。
でも、すぐに夢中になった。
もし、これが夢だとしたらもう一度見たい。
夢じゃなければもう一度行きたい。
そう思う。
しかし、一つ目小僧さんに言われた言葉がメモ帳に残っている。
・猫神様は求めると去って行く。
「いやいや、無理だよ〜。」
僕は考えた。どうしたら忘れられるかと。
(忘れる事を考えている時点でダメじゃ無いのか?)
そう思った瞬間に考える事をやめた。
ふとカレンダーを見る。
(そういえば最近旅行行ってないな。)
僕は旅行が好きだ。知らない景色。初めての経験。そんな体験にワクワクするのだ。
(次はどこに行こうかな。)
「あ、良い事思いついた。旅行行けば良いじゃん。」
猫神様が、気まぐれなら探したって仕方ない。
それに見分けもつかないなら尚更だ。
しかしチャンスはある。
僕は一度猫神様に認められたんだ。
それに、猫神様はその町に住み着いた猫。
複数いる。
そうなら別にあの神社にこだわらなくてもいいじゃないかと。
一つ目小僧さんは安倍晴明を知っていた。
おそらく、京都にもそう言う話があることは明らかだ。
「そうだ、京都に行こう。」
1人旅行をして、もしも、猫神様に招待されたらラッキーだ
それぐらいの感じで良いじゃないか。
僕は早速、来週の土日休みに京都に行く事に決めた。
時は流れ、旅行当日。
「長かった。1週間早めても良かったかも知れない。」
そう言いながらも僕の口角は上がっていた。
建前上は旅行だが、本心は猫神様に招待される事だ。
僕はすっかりメモ帳に書いてあった事を忘れて猫神様を求めていた。
名古屋駅から新幹線に乗り京都へ向かう。
新幹線で駅弁を食べながら流れる景色よりも速く、気持ちは先走っていた。
京都駅に着き、全くよそ見もせずすぐにタクシーを拾う。
予約したビジネスホテルまで直行した。
鴨川の西側に位置するビジネスホテルだ。
斜向かいには、和菓子屋さんがあり、目の前の通り沿いに銭湯。その先に居酒屋がある。
(家族のお土産は和菓子にしようか。)
そう考えながら、チェックインをした。
9時すぎだというのに、女将さん(?)は、快く受け入れてくれ、僕は荷物を置いてすぐにホテルを出た。
「さてと〜。まずは貴船神社だ!」
貴船神社は京都の北にある、鞍馬山の麓付近に、ある神社だ。
夏には、神社の前の道を流れる川の上に足場が組まれ、その上に畳を敷き、川床料理というものを楽しめる場所である。
縁結びに強い神社で、かなりの人が口コミで高い評価をしていた。
(コレだけ神様の力を実感した人がいるんだ。きっと、妖怪も猫神様も居るに違いない!)
そう思い僕はバスに乗り貴船神社を目指す。
携帯を触りながらSNSで妖怪の目撃情報を調べていた。
(全然ヒットしないな…。でも、ちょこちょこ気になる投稿はあるぞ。)
例えば富山県。
(蛇喰)(じゃばみ)という妖怪の伝承がある。
それに、
大阪府。
茨木市という所に、
(茨木童子)(いばらきどうじ)という鬼の伝承がある。
(居るんだ。妖怪は居るんだ!)
そうして期待に膨らむ胸を抑えて調べていると、気づけば目的地に到着していた。
バスを駆け下り、僕は小走りで、スマホのナビを使い貴船神社へ到着した。
(まずは猫を探そう!)
そうして猫の探索に入った。
猫用のオヤツを持ちながら探し回る。
(アレ?なかなか見当たらないな。人が多いからか?)
今日は土曜日だ。観光客で賑わっている。
右も左も前も後ろも人だかりができている。
(もう。コレじゃなかなか見つからないよ。)
そうして、僕は人の少ない方へ歩く。
貴船神社の奥宮へ来た。
ここは龍の飛び出した穴が祀られているらしい。
しかし、そんなことより猫神様を探してみるも全く姿は無い。
1時間以上時間が経った。
僕はそんなはずはないと猫神様を探し続ける。
社の裏や、道の端。木の上。時には駐車場まで戻り、車の下まで探した。
途中、警備員の方に、
「落とし物ですか?」
と声を掛けられるほどだった。
しかし、努力虚しく、帰りの最終便のバスが来てしまった。
山の中だからなのか、時間に比べてやたら暗く感じる。
僕はガックリと肩を落としてバスに乗り込んだ。
(自分の見たものは、本当は夢だったんじゃないか。だとしたら、僕はなんて勿体無い1日を過ごしたのだろう。)
そうして、心に軽い傷を負いながらホテルへ帰る。
「お帰りなさい。」
歳はもう80を超えているであろう女将さんが優しくお出迎えしてくれた。
「あ、どうも。」
そう言って部屋に上がろうとした時に、
「伏見稲荷は行ったかい?」
そう声を掛けられた。
「え?伏見稲荷?」
僕は部屋に入り調べた。
京都伏見稲荷大社。今日は「本宮祭」というものが行われていて、なんとこの神社の見所である千本鳥居に提灯が飾られるというのだ。
(実際に鳥居の数は万を超えているらしい。)
「せめてコレだけは見に行こうかな。」
時間もまだ早い。明日には愛知へ帰らなくては行けないのだから。
僕はそうして千本鳥居へと向かった。




