第十五話 学生気分。
社員旅行当日。
僕は30分ほど早く到着した。
しかし、皆同じ気持ちなのか、すでに20人ほどが会社の駐車場に集まっていた。
楽しみでついつい早めに出てしまったのだろう。
旅行者は全員で30〜40人ほどで、バスは2台。運転手もすでに待機している。
部屋割りも決まり、別の部署で1番仲のいい同僚というより、同じ高校を卒業した同級生が同室になった。
「よう!早いじゃん!」
「おはよう。ダイも早いじゃん。」
同僚の名前は、
《早川大》。
小学校の時から、名前を言い間違えられてそれがそのままあだ名になったやつだ。
性格は僕とは全然違って、誰とでも仲良くなれる人見知りしないやつだ。
「いやぁ楽しみでさ笑。最近全然顔見なかったけど、なんか前より明るくなったか?調子良さそうだな!」
「そんな事ないよ。普段通り。でも今日はちょっと楽しみにしてたんだ。」
お互いの近況を報告し合い、話が同級生の話題へと変わった頃、係長から声が掛かった。
「おはよう皆んな。この後すぐ朝礼するけど、その後点呼するから、同室のペア同士で2列に並んでて。」
そうして係長は、支部長の所へ行き、一緒に喫煙所へと向かった。
人が続々と集まってきた。
そろそろ数を数えるのが面倒になってきたタイミングで、琴美さんが、仲のいい先輩と駐車場に姿を現した。
声を掛けようとした時に、支部長と係長。気づけば部長も一緒に居て、3人がこちらに来て場を整えた。
男性は部長の方へ列を作り、
女性は係長の方へ列を作った。
駐車場に数人の集団が入ってきて駆け足で列に合流する。
そして全員が揃ったので、支部長が軽く朝礼をし、
男女別でバスに分かれた。
道中の移動は思った以上に楽しかった。
ダイのおかげもあり、沢山の人と喋ることができた。
「バイク乗ってるよね?この前通勤で乗ってきてたでしょ?今度ツーリング行こうよ!」
「最近顔色良くなったよね?なんかいいことあったの?」
「ちょこちょこ休憩被るよね?話しかけていいのか分からなくてさ〜。」
「琴美さんと良く喋ってるよね?仲良いんだね。」
僕は意外と自分の事を見られているんだなと少し恥ずかしい気持ちと、嬉しい気持ちでお腹の辺りがくすぐったくなる。
何人かと連絡先を交換して、遊びに行く約束をした。
「そういえば、明日の夜さ、肝試ししない?」
4個上の先輩が言った。
「肝試しっすか?」
ダイが聞く。
「そうそう!なんか飛騨高山の言い伝えなんだけど、《血を流す木》があるらしくてさ。女の子も誘って行こうよ!」
先輩はノリノリだ。
「良いですね!行きましょうよ!」
ダイも乗った。
「肝試し行くか?」
先輩は僕にも聞いてくれた。
「行きたいです!」
僕は誘われたことが嬉しかったので即答した。
男性側は4人で、女性側は3人来るらしい。
夜は7人で《血を流す木》を探す予定ができた。
バスは最初の休憩所の瓢ヶ岳PAに到着した。
男性陣の8割がトイレ休憩に行く。
残りの人達は寝ていた。
僕らはついでに売店へ入り、お菓子を買ってバスに戻った。
まるで修学旅行のような気分だ。
特にトラブルもなく進み、バスはひるがの高原SAまでスムーズに到着した。
昼食休憩のフードコートで、僕はラーメンを食べ、ダイは唐揚げ定食を食べていた。
昼食を食べ終わり、建物を出る。
右手に向かって歩くと見晴し台がある。
ひるがの高原SAは日本一標高の高いSAらしい。
標高約860メートルに位置し、見晴し台からは、大日ヶ丘が一望できる。
天候に恵まれれば霊峰白山も見えるようだが、今日は雲が目立つ天気で僕らは見つける事が出来なかった。
昼食も済ませSAも満喫したのでバスに戻る。
ご飯を食べたせいで眠気が襲ってきたので目を瞑った。
ガコン…プシュー…。
身体が軽く揺れて目が覚める。
気づけばバスはSAから出発して、僕が眠っている間に白川郷に到着していた。
「着いた?」
「おはよう。着いたみたいだ。」
ダイも寝起きなのか目を擦っていた。
運転手から到着の案内があり、バスを降りた。
広い駐車場だ。
この駐車場から東に向くと、橋が掛かっている。
この橋を越えると白川村らしい。
橋を渡るとすぐ左手に小さい神社が出てきて、
目の前に鳥居が現れる。
この鳥居をくぐると白川村の中に続くのだ。
(鳥居を潜って町に入るのか…。なんだか変な気持ちだ。)
合掌造りの集落はとても穏やかな雰囲気があり、
茅葺き屋根は想像よりも大きく圧倒された。
集落を少し外れたところに、城山天守閣展望台と表示されている場所がある。
僕はパンフレットを見ながら展望台に向かって歩いた。
ここはアニメの聖地にもなっているようで、
ダイは「ちょっと聖地巡礼行ってくるわ!」
そう言ってテンションを上げたまま走り去ってしまった。
展望台への道は意外と勾配がキツイ坂道で、舗装されてはいるものの、夏の日差しと相まってなかなか大変だ。
少し立ち止まって休憩をし、タオルで汗を拭く。
水を飲んでいると呼ばれた気がして来た道を振り返った。
琴美さんが仲のいい先輩と来ていた。
「やぁ。朝は話すタイミングが無かったね。」
僕はそう声をかける。
「おはよう…で良いのかな?笑。展望台行くんでしょ?一緒に行こうよ。」
琴美さんはそう言って並んだ。
「この子?最近こっちゃんが話すようになった子。」
琴美さんの作業場の先輩が僕を見て言った。
僕は挨拶をする。
この人は、《仁美さん》。
身長が高く、ピンクのインナーカラーに金髪のポニーテール。耳には重たそうなピアスがたくさん開いている。姉御肌気質な人だ。
正直苦手なタイプだけど、こう見えて意外にも面倒見が良いらしい。
「そうです。旅行が趣味で結構1人であちこち行くみたいなので、私と話が合うんですよ〜。」
そう言って琴美さんは軽く僕を紹介してくれた。
「へぇ。見た目に似合わずアクティブなんだね。君。」
仁美さんは僕を見て、少しだけ意外そうな顔をした。
僕らは展望台まで登り切った。
景色を一望できるデッキが設置されており、人がたくさん並んでいたが、まだまだ余裕がありそうだったので空いたスペースから、集落を覗いた。
「うわぁ。凄い!」
声が漏れた。
白川郷とネットで調べると、同じ角度から撮ったであろう写真がたくさん出てくるが、
この位置から撮った写真だとすぐにわかった。
集落全体が収まる景色だ。
家と家の間には田んぼがあり、緑色が太陽に反射し、クレヨンで塗ったのかと思うほどハッキリと色づいている。
一見地味そうに見えた合掌造りの屋根の色が、より強調され、上手な人が描いた風景画の様な感覚だ。
集落の奥の方には山が見え、デッキの足元には、奥に見える山の名前と写真の映ったパネルの様なものが置いてあった。
風が下から吹き、服の中へ入り、首元から抜けて行く。目の前の景色に圧倒されながら、
ふと集落の方に目を落とすとダイが歩いていた。
オレンジ色のタオルを頭に巻いていたので、すぐに分かった。
カメラを構えながら歩いている。
(楽しそうでなによりだ。展望台には来ないのかな?)
琴美さんは先輩と話しながら感想を述べていて、
それを聞いた先輩が、
「うん。うん。そうね。良い景色だ。来られて良かったじゃないか。」
と相槌を打っていた。
蝉の声がいつもはうるさくて仕方がないのだが、この景色を見ながら聴くと、それはそれで風情があって良いなと思う僕だった。




