第十四話 忘れかけのラッキー。
「大丈夫?」
琴美さんは目にクマを作った僕の顔を覗き込む。
「なんとか。」
おいでんまつりの後、しばらく面倒を見ていなかったバイクの燃料を確認しておらず、途中でガス欠を起こしてしまった。
その時間営業しているガソリンスタンドまで押して歩いたのだ。
いくらバイクの中では軽量級とはいえ、自転車とは勝手が違う。
僕は40分程押して歩き燃料を入れて、帰ってきた時には日付を跨いでいた。
そこからシャワーを浴び布団に入ったものの、昨日の出来事が忘れられなくて、なかなか寝付けず、
結局2時間ほど眠れたからどうか。
朝から身体がだるく、眠気も酷い。
自転車を漕ぐ気が起きなかったので、珍しくバイクで出勤した。
「そっか。無理しないでね?」
琴美さんの優しさが沁みる。
「ありがとう。今日頑張ったら早く寝るようにするよ。」
そう言ってエナジードリンクを飲んだ。
「そういえば、昨日おいでんまつり行った?」
琴美さんにそう聞かれた。
あの夜、僕は琴美さんと目が合ったが、その瞬間に裏の世へ招待されたので、どう映っていたか分から無いので嘘をついた。
「昨日?昨日は家で1日過ごしてたよ。動画見てたらいつの間にか日付跨いじゃってて。」
「そっか〜。じゃあ気のせいか。」
「僕のそっくりさんでもいたの?」
「うーん。多分。瞬きしたら消えちゃったから多分見間違いだと思うな。」
(ふむ。そんな感じで見えるのか…。)
僕は覚えていたらメモしようと思った。
「話変わるけど、来週の社員旅行楽しみだね。」
琴美さんは、話を切り替えた。
「あれ、来週だったっけ?」
会社で旅行に行くのだが、希望者のみ一年前から給料の積み立てのような事をしていたのをふと思い出した。
「そうだよ!白川郷行ってみたかったんだ〜。」
社員旅行は、岐阜県の白川郷。
世界遺産(文化遺産)に認定された茅葺き屋根の合掌屋根の集落だ。
(そういえば会社から旅行のしおりみたいなのもらったな。帰ったら探してみよう。)
休憩時間が終わり、僕らは持ち場は戻った。
(社員旅行なんてすっかり忘れたな。)
その後は、琴美さんと休憩が被ることはなく、帰り際に一度すれ違ったぐらいで、その日の仕事は終わった。
今日は寝不足のせいでかなり疲労が溜まっていたので、猫様達のところには寄らずに帰る。
アパートに帰り荷物を置き、シャワーを浴びたら髪も乾かさずにしおりを探す。
幸いにもすぐに見つかった。
(二泊三日なのか。全然見てなかったな…。)
しおりには、だいたいの流れが書いてあった。
1日目。会社に10時集合。
バスに乗り白川郷へ。
瓢ヶ岳PAで小休憩。
ひるがの高原SAで早めの昼食休憩。(自由休憩)
白川郷へ。
17時に白川郷出発。
高山市へ。
駅周辺のホテルにチェックイン。
20時〜晩御飯。
その後自由行動。
2日目
9時集合。希望者のみ(大鍾乳洞)ツアー参加。
(事前のアンケートに記入し、提出。)
それ以外の者は自由行動。
20時〜バイキング式の夕食。(こちらも自由)
3日目
10時チェックアウト。
高山駅からバスに乗り帰宅。
帰りのPA、SAは未定。
15時頃会社に到着予定。
解散。
「へ〜。結構自由な時間ありそうだな。」
そう言って僕は大きな欠伸をした。
鍾乳洞はアンケートをいつ取るのだろうか?
そう思っていると、もう一枚紙が静電気でくっついている事に気がついた。
「?」
僕は紙を剥がす。
鍾乳洞へのアンケート用紙だった。
「あ!コレか!」
僕はアンケート用紙を確認した。
「えーと。提出期限は……。」
期限から1週間が経過していた。
「やっちまった〜。勿体無い〜。」
僕の会社は結構期日などにうるさいと聞いたことがある。
こんな事で、上からぐちぐちと言われたくないので、今回は見送る事にした。
(まぁ、楽しみをとっておくと言う事で。)
もともと忘れていたぐらいなのでショックはそれほど大きくなかった。
むしろ、自由時間を確保出来たのだからどこを巡ろうか考える。
しかし、睡眠不足のせいか、頭が回らず、眠気が襲ってきた。
(まだ時間はある。ゆっくり考えよう。)
僕はそうして就寝する事にした。
入眠まではかなり早かった。
(高山市って何が有名なんだろう?)
そう考えながら寝たはずなのに1つも思いつかずに眠ってしまったぐらいだ。
飛騨高山に想いを馳せて眠りにつく僕の顔は、少し前の自分では考えられないほどに爽やかな表情だった。




