第十二話 花火と肩車。
僕は、バイクに乗っている。
HONDAのFTR223は、ここ最近出番が多いおかげか、なかなか快調だ。
向かうのは豊田市だ。
《豊田おいでんまつり》の花火大会にお邪魔する。
花火は矢作川を跨いだ場所で打ち上げられる。
毎年かなりの人が来るらしく、立ち入り禁止区域もあるようなので気をつけなければならない。
駅から、川にかけて規制が入るらしい。
僕は電車で行くか迷ったが、人が多いので電車の中はきっと窮屈になるだろうと考え、思い止まった。
バイクで、少し離れた場所に停め、その後に歩いて会場に向かう予定だ。
しかし、これは少し予想外。
東名豊田インター付近まで来たのだが、すでに渋滞が始まっていた。
「ええ〜!?こんな所から!?」
僕は周りに申し訳ないと思いながらも、バイクですり抜け、信号の先頭に行く。
しばらく走り、会場から2キロほど離れた場所にバイクを停めた。
結構距離は離れているが、時間にはまだまだ余裕があるので、歩くことに決めた。
喧騒の中僕は1人で歩く。
駅のロータリーのような所に、足場が組まれ何やらその上からマイクを通して話す人がいる。
それを遠目に眺めて素通りした。
屋台が見えた。
(何か買っていこうかな?)
そう思い唐揚げとお茶を購入。ついでに、冷やしきゅうりも買う。せっかくなのでビールでもと思ったが、今日はバイクだ。
(うーむ。電車で来た方が良かったかな?)
一度そう思ったが、満員の電車を想像して、やはりバイクで良かったと思い直した。
矢作川の河川敷周辺まで来た。
人の渋滞が凄くてなかなか進まない。
(ヒェー。こんなにたくさん!?)
僕は屋台で買った物と、人の行列が一緒に画角に収まるように写真を撮り、家族に送った。
《凄い人だね〜。行かなくてよかった…お兄ちゃん頑張って。》
《人混みが凄いな。帰りも大変そうだな。》
《電車で行ったの?》
僕はひとつづつ返信した。
《今日は来なくて正解だったかもね〜。苦笑》
《お父さん。そんな怖いこと言わないで…泣》
《今日はバイクで来たんだ。》
そんなやりとりが多少気休めになった。
河川敷に到着すると、上も下も人でいっぱいだ。
堤防にまで人が広がっている。
橋の方からは、交通整理の警備員さんの笛が聞こえる。
浴衣を着た人達。家族連れで来る人達。関係者の人が来賓席と張り紙のあるテントとテントの間を走り回り、スピーカーから、落とし物や迷子の案内。
花火の打ち上げ時刻の案内や祭りの歴史などをアナウンスしている。
(なんだが懐かしいな。昔どこかのお祭りでお父さんに肩車してもらいながら見た花火を思い出すな。)
そんな事を考えていると、アナウンスが入った。
『お客様に申し上げます。本日は《豊田おいでんまつり》にご来場いただき誠にありがとうございます。まもなく花火大会が始まります。小さなお子様や、心臓に疾患のお持ちの方は充分に注意してお愉しみくださいませ。』
(そろそろか。)
「どこかの飼い猫?」
「かわいいね。」
「ママ見て!にゃんこ!」
僕の後ろで声が聞こえて振り返る。
その瞬間に見覚えのある顔が視界に入る。
琴美さんが居た。
琴美さんと一瞬目が合った。
「あ、」
琴美さんがそう小さく口を開いた瞬間に、
世界はキラキラと輝き出した。
真っ暗な空は、群青色に染まり、星々が光の強弱を自身で調整しているかのようにピカピカと光る。
様々な浴衣の柄が動き出し、色鮮やかな朝顔や、子供の着ている服のスイカの絵が、本物の様な立体感を放つ。
橋のライトがイルミネーションの様だ。
花火が打ち上がる。
ヒュルルル〜〜という音がまるで楽器の高麗笛や、神楽笛の様な音に聞こえた。
どぉーん!!バラバラバラバラ!
とても大きな轟音とともに、
琴美さんの顔が赤、青、黄色など色とりどりな明かりで照らされた。
花火が打ち上がった。
僕は振り向いた。
星が爆発したかの様な光景が僕の目の前に飛び込んでくる。
「琴美?どうしたの?」
「ああ、いやごめんね。知り合いがいたと思っんだけど……気のせいかな?」
「なになに?彼氏候補?」
「そんなんじゃないってばぁ〜。」
僕はそんな会話も耳に入らないほど花火に夢中になっていた。
「綺麗…。」
花火は止まる事なく打ち上がる。
赤やオレンジ。紫にピンク。黄色や青色。時には緑や白など、目の前で爆ぜては生まれ爆ぜては生まれを繰り返している。
降り注ぐ様な演出の花火は星の散りばめられた空を自分が進んでいる様な感覚で、
落ちてきた流れ星を思わせた。
頭の上には猫神様が乗っていて、こんな轟音にも関わらず、おとなしく座って僕の顔を覗き込んでいた。
おそらく白色だ。白色の猫神様は、僕と目が合うと前足を毛繕いし始めた。
「素敵なタイミングでどうもありがとう。」
僕は手に唐揚げときゅうりとお茶を持ちながらも形だけでも手を擦り合わせ、
「ありがたやありがたや。」
そう礼拝した。
後ろを振り返るとすでに琴美さんは居なく、どこかへ行ってしまった様だ。
(どんな風に写ったのだろうか?猫神様が僕の頭の上になった瞬間は。)
色とりどりの花火はまだ打ち上がったばかりだ。
金色の歓声が、人々が心から楽しんでいる様を分かりやすく表していた。
僕の後ろ姿はまるで子供を肩車している様なシルエットになっていた。




