第十話 金の鳥居。
蟹坊主は、1人ずつ紹介してくれた。
「まずはこの首の長い者が、《ろくろ首》。」
ろくろ首は手をひらひらと揺らした。
見た目は意外と若く見え、30代ぐらいの見た目だ。首をしまえば、人と見分けがつかないほどだった。
(有名な妖怪だ。知らない人はいないんじゃ無いだろうか。)
若さの秘訣はこの名前の有名さにあるのでは?と思った。
「この者が、《白蔵主》。」
袈裟を着た、お坊さんの様な見た目の男だが、
顔は動物っぽい。
(顔立ちに何か親近感があるな。)
そう思っていると、白蔵主は、口を開く。
「少し違うが、妖狐って言ったら分かりやすいかもな。」
そう聞いて、京都の気狐を思い出した。
「あぁ〜。なるほど。京都で気狐さんに会いましたよ。」
僕は伝えた。
「気狐とは少しだけで族が違うんだが、ありがとよ。」
そう言って手を顔の近くまで持っていきお礼を言われた。
「こやつは、《小豆洗い(あずきあらい)》。」
先ほどから、ショキショキという音を鳴らしていた小さな妖怪は、ボロボロの服を着て、頭は禿げており、大きな目をしている。
「よっ。」
と言ってまた、ザルに入った小豆を鳴らす。
(小豆洗いは聞いた事があるぞ。)
川の近くに出ると聞いたが、見る限りそうでも無い様だ。
「そして、《ヨゲンノトリ》。」
先ほどから、小豆洗いの頭の上に乗っていた、
白い頭と黒い頭の2つを持つカラスの様な姿の妖怪は喋り出した。
「よう!人間!よろしくな!」
「あなた、本当に人間なの?まだ信じられないわ。」
黒い頭が男?で、白い頭は女?の様な口調で話す。
そうして、場を仕切ってくれた蟹坊主の見た目は、
大きな蟹の姿に、髭を蓄え、無理やり人型にして袈裟を着た様な感じだ。
(妖怪って袈裟を来ている事が多い気がするな。)
僕が、西裏通りに泊まると言う事を伝えると、
送っていくから、それまで話をしようと歩くことになった。
「いやはや。こうして人間と喋るなんてほんとに何百年ぶりだろうね?」
ろくろ首はそう言いながら首を伸ばして、僕の周りをぐるぐると見回した。
「これ、ろくろ。お前だけ独り占めするでない。
儂らかて話したいのだぞ。」
そう言って蟹坊主は、ろくろ首の顔をハサミでしっしっと遠ざけた。
観光客の集団が、僕らをすり抜けながら通過した。
「最近は皆、スマホ?とやらに目を奪われて、ろくに景色も楽しまんの。」
白蔵主は、そう言いながら観光客を目で追いかけた。
「そうよ。勿体無いわ。」
白い頭のヨゲンノトリが相槌を打つ。
「アンタもスマホとやらは持っているのかい?」
黒い頭が聞いて来た。
「ええ、一応今も…。」
そう言ってポケットから取り出したスマホは画面にノイズの様な砂嵐の様な物が写っており、操作が出来なくなっていた。
「あれ、使えない。どっかで落としちゃったのか?」
そう言うと、小豆洗いが答えた。
「猫神様の力かもなぁ。」
原因を分かっている様な口調では無かったが、
なんとなく、そんな気がすると思い、
「なるほど。」
と納得した。
「あんた、金鳥居は、見たかい?綺麗だろ?」
蟹坊主にそう言われた。
(綺麗?青銅色をしていて、黒ずみの様な模様まであったが、妖怪たちの基準からするとそういった色は綺麗なのか?)
疑問は思ったが、あえて口を出さずに、
「ええ、見ました。よかったです。」
と当たり障り無い返答をした。
このまま歩けば、もう一度金鳥居を潜ることになるのでその時にもう一度良く見てみようと思った。
僕はポケットから1枚の写真を取り出して、妖怪たちに見せた。
「この人会ったことありますか?」
そうして見せた写真は、おじいちゃんの若い頃の写真だった。
旅行に来る前にお父さんに写真を1枚預かったのだ。
「んー?知らないなぁ。」
「ごめんなさいね。見たことないわ。」
「あそこの商店街の親父に似てないか?」
「良く見なさいよ!全然似てないわよ!」
「いやぁ。儂は見たことないのう。」
「初めて見るなぁ。」
妖怪たちは写真を回しながら答えて僕に返した。
「知り合いなのか?」
蟹坊主が聞く。
「僕のお爺ちゃんなんです。多分なんですけど、昔裏の世に来た事があるみたいで…。」
「なんだって?あんたのお祖父様も、猫神様に招待されたのかい?」
ろくろ首は、また首を伸ばしてまじまじと僕を見た。
「いえ、多分です。もう亡くなってしまったので、確認は取れませんが、猫神様の事を知っている様だったので。」
僕は答えた。
「猫神様って言うのは俺たちの世の言葉だ。もしかしたらお祖父様は本当に来た事あるのかもなぁ。」
小豆洗いは、ショキショキとザルを鳴らしながら教えてくれた。
「あんたいつまで鳴らすんだい?ソレ」
白頭が言う。
「仕方ないだろ〜?俺はそういう妖怪だ。」
小豆洗いは答えた。
そうして歩いているうちに金鳥居まで戻って来たが、僕は驚愕した。
先ほどの青銅色とは打って変わって、
金色に輝く鳥居が目の前に現れた。
「え?え?」
僕は鳥居の正面に回り込む。
やはり金だ。
夕焼けのオレンジ色の空に、銀色の雲。太陽の光を反射した真っ赤な富士山。頂上はやや白く、麓に近づくにつれ、深い青色へと変化している。
道の街灯はほんのりとした白い光を放ち、薄暗い通りに優しい光を落とす。
この景色が全て、金鳥居の中に収まり、まるで浮世絵を、見ている様だった。
「こ、コレは…。」
何も発する事ができなかった。壮大で神秘的な景色は、僕の身体の自由を奪う。
「どうした?金鳥居はさっきも見たのでは無いのか?」
白蔵主が聞いた。
「あ、いや、僕らの生きている世界…現世とは色が…。」
「え?違うのかい?現世はどんな色をしているの?」
ろくろ首が聞いて来た。
「なんというか、青銅の様な色をしていて、どちらかといえばあまり見栄えしない色で…。」
妖怪達はへぇ〜と感心して、それぞれの意見?考察の様な事を話し始める。
「きっと裏の世は言葉の意味が強く現れるのでは無いか。」
「いや、もしかすると本来の姿を表しているのではない?」
「待て待て、猫神様の力の仕業ではないか?」
そう口々に会議を始めると、猫神様が大きな欠伸をして、頭の上で足をふみふみとし出した。
「うむ。猫神様が飽きてしまった様だな。」
蟹坊主がそう言うと、皆がこっちを見る。
「えー!?まだまだ話し足りないよ!」
「猫神様〜!もう少しだけ!もう少しだけ!」
「次は何百年後になるかな?達者でな人間。」
「俺はヨゲンノトリ!覚えておいてくれよ?」
「たまには思い出してちょうだいね?」
一同の声を聞き終わった後に、猫神様は後ろ足で首元を描き、飛び降りた。
妖怪達は最後の最後まで僕に手を振り続けてくれて、
僕も振り返していた。
突然世界は薄暗くなり、金鳥居は、本来の色である、青銅色に戻る。
賑やかだった空間に静寂が訪れ、富士山は薄暗くそびえ立ち、夕陽はほとんど沈みかけて、商店街はすでに夜の景色へと変わっていた。
猫神様は、一度こちらを振り向いて、
「ニャッ」と短く鳴き、そのまま走り去ってしまう。
自動販売機の角を曲がり姿が消えた。
「ふふ。」
僕は先ほどの出来事を思い出して少し笑い、
今は何もない空間にお辞儀をして、ホテルに帰った。




