第9話 モグモグポリティカル
昼食時、それは唐突に聞こえてきた・・
「お食事中失礼します──」
工場の食堂にマイクの音声が響いた。
柴田は何事かと視線を向けると、工場の人間数人と一緒にスーツ姿の男、たぶん五十はいってると思しき人物がいた。
マイクの主は続ける。
「来たる衆院議員選挙に向けて、我々の代表たる後山浩一を国会に送り込むため、ここに皆さんの支援を賜りたく、後山氏よりご挨拶いただきたいと思います」
そう言って、スーツの男にマイクは渡された。
この工場内で選挙活動?だろうか。厳密には何か適切な名称があるのかも知れないが、何やそれっぽいのが始まった。
柴田もよく知らないが、最初にマイクを握っていた人達は労働組合の人間で、定期的に食堂でマイクを使った報告みたいな事をしていた。
今回もそれかと思ったら、突然の選挙云々で、柴田も少し驚いた。
しかし、柴田も工場で働き始めて知ったが、工員は結構、この手の話題と無縁でない。
出勤時には工場の入り口付近で、某政党がビラを配っていることが間間ある。飽きもせずやっているので、それなりに効果はあるのかも知れない。
聞いた話で、どこまで本当かわからないが──、過去には、その政党の介入で雇用トラブルが解決したとか何とかいうのもあった。
柴田の勝手な主観ではあるが。
──票田ってこんな感じなんだ。
そのような印象を持った。
柴田が独り工場の政治色に思いを馳せている間に、後山氏の話は終わったようだ。
「最後に、後山氏の当選を期待して、大きな拍手を送りたいと思います」
進行役が言って。
「後山浩一。頑張れ!」
と声が掛かって拍手が始まった。
見れば、食堂のテーブル、左右の人も手を叩いている。おそらく彼らは正社員、そして組合員なのだろう。
しかし少々訝しむ点というか、不思議に感じたのは・・
時に、世間では官製春闘などと言われ、政府主導の賃上げが行われていたのだが、組合が推す後山氏は野党の候補者だったのだ。
柴田としては代表を送り込むというなら、政府に近い与党の方がいいのではと思えた。
さはさりながら──。
──まっ、キカンの俺には関係ないか。
柴田は意識を味覚の方へ戻した。




