第10話 ギャクギャクカート
大食いの棟方は、更新せずに工場を去った。
最終日は早番であったが、棟方は最後の食い納めとして四食を食し、パンパンの腹で糞忙しい時間帯の作業を熟していた。
この偉業?は、しばらくの間、四食の伝説として語り継がれることになる。
で、一人減った訳だ。そしてまた一人、新しい期間工が補充される。
北海道出身の水谷が、柴田のところに加わった。
なぜ出身地をピックアップしたかというと、柴田の所属するチームは現在、総勢二十七名で、内四人が北海道の人なのだ。ただの偶然だろうが、かなりの道民率である。
更に言えば。公式な名称はないが、班ともいえる柴田のいる小グループに、水谷を加えて三人の道産子がいることになる。道民のホットスポットである。
とまれ──。柴田は水谷に教えるような形で仕事をすることとなった。
ところがこの水谷、少し変な人だった・・
部品の運搬には大きな台車を使うのだが、この台車は片側だけが可動式キャスターになっている。自動車でいえば前輪、後輪の関係だ。
台車の使用方法は、可動側を手前にして押す形が正しいとされている。自動車とは逆だ。引くこともあるが、それでも可動側を持って引っ張る形になる。「自在が手前」とか言われていた。
水谷が台車を押すとき、前後が逆だった。最初だから、そういう間違いもある。気付いた柴田はそれを指摘し、訂正した。その日はそれで良かったが──。
次の日、また次の日も、水谷は逆向きに押そうとする。
柴田も付きっきりという訳ではない。自身もやることがあり、部品を運び終えて集積基地となっている場所に戻ると。
「おめぇ逆だって言ってるだろうが!」
柴田のいる班(仮)を仕切っている先輩、黒井が怒鳴っていた。言わずもがな、相手は水谷だ。
どうやら、またしても逆向きに台車を操作しようとしたらしい。
──なんか拘りでもあんのか?
柴田としても訝しむ話だった。
ちなみに、黒井は北海道出身である。元より声を張ることが多い人間だったが、このときは、いつにも増している感だった。
──同郷ゆえの・・
などと薄ら思った柴田だったが。
──まぁ、流石に怒るか・・
水谷の奇行から、妙に納得を持ってしまった。




