第6話 ジトジトアイ
柴田が働き始めて、そろそろ二ヶ月半といったときだった。
「今日終わったら、更新があるから行ってこいよ。坂上は場所わかるよな?」
「はい──」
「なら皆を連れてってな」
朝礼終わりでサブリーダーが言った。
事前に、チームリーダーから更新するかしないかの確認は済んでいる。柴田も、契約更新すると返事をしていた。
更新は、契約書の更新日が近い者らで一斉にやる。ただ近いといっても、日付に三週間ほどの開きがあるようで──。
例えば、案内役となった坂上は、柴田より一週間まえに入社している。また、柴田より一週後、二週後に入った者も一緒に更新することになるらしい。
早番の仕事が終わり、柴田は坂上らと更新手続きが行われる会場へ向かった。
坂上は、何度も期間工として働いているらしく。工場の隅々まで、勝手知ったるといった感じで歩いていた。
机と椅子が沢山あるホールのような所に着いた。既に半分ぐらい着席している。机の上には契約書と思しき紙が置かれている。
柴田たちも空いている席に座った。
まだ何も始まってはいないが、皆もう既に契約書に名前を書き始めている。柴田もそれに倣い、名前を書き、判子押した。
そうこうしている内に係の者が入って来た。
件の人物は女性で、マイク越しに更新に関するあれこれを説明しだしたのだが・・
──何だよ、この嫌そうなの。
女性は非常に、やな感じの音で説明をしていた。もう十人中十人が。
──何この人?
と思っちゃうぐらいの不機嫌さマックスで喋っている。
──もうちょっとマシな人はいなかったのか?
柴田がそう思っていると、会場に遅れてきた者があらわれた。
遅刻した彼はガラス扉を開けて入って来たのだが──。係の女は、スタスタと扉の所まで行くと。
「もう開始時間は過ぎました」
そう言って扉を閉めてしまった。
確かにその通りだし、遅刻は、まぁ駄目だろう──。
さはさりながら。柴田たちは坂上がいたから簡単に会場に来れたが、まったく初めてなら迷ったかも知れず、実際説明も会社の方針について語り出しただけだったから、ちょっと厳しすぎるという印象をもった。
尤も、女の語りの感じの悪さから、贔屓目になっているのかも知れないが。
ガラス越しに困惑する彼を置き去りにして、女はマイクの所へ戻った。
その表情は、前にも増して不機嫌に見えた。
それから、売り上げがどーたら、海外がどーたらと会社の現状について語られ、工場の一労働者に説明されたところでという疑問を持ちつつも話を聞き、ようやっと更新契約の話に移った。
まぁ、内容は特にない。
しいて挙げるなら、割り印を押すのを忘れないようにという事ぐらいだろうか。本人控え、会社控えを重ねて捺印するやつだ。
最後に契約書を提出して退出した。
帰り道。
「あの閉め出された人、どうなるんっすかね?」
柴田は坂上に聞いた。
「たぶん後日、事務所で一対一で同じ話を聞かされる。たまたま休んだりした場合とかも、そうなるから」
「それって、係としても仕事増えるんじゃないですか?」
「だと思う。だから、あの締め出しは、ただのマウント」
坂上はそう言ってのけた。
「ハハ・・」
柴田は、女のジトッとした目つきを思い出し、乾いた声で笑った。




