第34話 ドボドボタップ
年末、最後の稼働日。柴田たちは遅番だった。
最終日といえども、早番の時間帯は普通に工場は動いている。引き継いだ遅番も、夕食からプチ休憩まではいつも通りであった。
休憩開け少しすると、ラインは空の状態で流れるようになった。おそらくだが、予定分を完成させてから業務終了になるのだろう。仕事がなくなったラインの者は、自分の身の回りを片付けたりし出している。
ラインに仕事がないという事は、当然、柴田たち部品供給の仕事はとっくに終わっている。彼らは寒さに耐える時間を、いつもより早めに迎えていた。
ラインが完全に止まり、皆は本格的に掃除を始めたようだった。
柴田たちはというと、遅番時はやることがないため普段から掃除は過剰なほどやっている。この日も既にやり尽くした感があるほどだった。
すると、チームの別班の者がやってきて。
「どうせこっちにいてもやる事ないだろうから、向こうの休憩室に集まろうってなってんだけど・・」
と、黒井班(仮)や、隣の班の者たちに呼びかけていた。
まぁ、仕事もないのに寒いところで終業時間まで待機するのは、どう見繕っても意味はなさそうなので、ありがたい話でもあった。
で、黒井班(仮)と隣班も移動しようとなったが──。
「俺はいいっす──」
と、沼川が言い出した。
休憩室に集まるのは仕事ではない。業務命令でもない。あくまで提案であり、柴田の所属するチームの自主判断といったところだ。
だから行かないとしても特に問題はない。本来いるべき場所で待機してるのだから、誰に憚ることもない。
さりとて、一人だけ残していくのも変な話だったから「ここにいてもしょうがない」的な説得が試みられるのだろうと、柴田は想像した。
しかるに。
「そうか──」
黒井が沼川に言って、あっさりと話は終わってしまった。
少し遠い所の休憩室まで行くと。
「沼川は来ねーって・・」
黒井の言葉に。
「なんだアイツ」
一人が憤った声を発した。
それに続く者はいなかったが、皆、こうなることは予測が付いていた感だった。
ともあれ、チームの半分ぐらいが会することとなり。皆を集めたであろう社員の男(特に役職はなしと思われる)は──。
「年末だし、年越し蕎麦食おうぜ。お湯もらってきたから」
と、言いだし。カップ麺の蕎麦を皆に配りだした。お湯は青いポリタンク(下部に蛇口が取り付けられているタイプ)に入っているようだ。
柴田を含め。
──これはいいのか?
という疑問を持った者は多かっただろうが、特に疑義を問われることはなくカップ蕎麦はゆき渡った。
蕎麦は色んな種類が用意されており、意識したわけではないが、柴田が袋から取り出したのは「なめこおろし」とかいう種類だった。
社員の男は適当に棚にあるのを購入したようで。
「俺のうどんなんですけど・・」
中にはうどんも混じっていたが。
「そんなもん同じだよ」
気にも留めていなかった。
それからしばらく雑談のような時間を過ごしていたが、一人が。
「俺、腹減ったんで、もう食いますわ」
と、カップ蕎麦にお湯を入れだした。
が──。
「ちょっ──。お湯が止まんないっ! ちょっと、お湯が!」
どうしたことか、お湯が入っていたポリタンクの弁が機能しなくなった。
「えっ? 何やってんだよ」
と、最初は言っていたが、どうにもならないとわかると。
「みんな、急いでお湯を入れろ。もうこれ完全に壊れた」
となって、皆は慌ててカップ蕎麦を開けて次々にお湯を入れだした。
期せずして一斉での実食タイムになってしまった。
食べながら。
「お湯の熱で、駄目になったんじゃないっすかね?」
「あー。耐熱じゃなかったのか」
蛇口が壊れた原因について話したりしていた。
言われてみれば、野球部のマネージャーが麦茶用意してそうなポリタンクである。お湯を入れるのは無茶だったのかも知れない。
そして、最初に食おうとした者は何故か責任を取らされて、こぼれたお湯を拭くハメになっていた。
柴田は何事もなくカップ蕎麦を食べ出したが。
──う~ん・・
なんだか、ぼやけた味のように思え。
「どうだった、それ?」
「イマイチです」
坂上の問いに、渋い顔で答えることとなった。
──こういうときは、定番を選ぶべきだな。
自分の家なら、好みでなくとも多少のアレンジでなんとか出来るが、このような場ではそうも行かないと柴田は学習した。
柴田にとって、色々と教訓を得た終業日だった。




