第31話 サムサムウインター
季節はすっかり冬になっていた──。
早番の出勤時は暗いなかを駅まで向かうことになる。
とはいえ駅までの通り沿いの歩道は、それなりに明るさがある。田舎だけに街灯は少ないが、看板や自販機の光が結構道を照らしている。
だがしかし、柴田は、この歩道をあまり歩かない男だ。
歩道は同じく寮から出勤する者たちや、その他、早朝から駅に向かう人間たちが歩いている。一人一人、歩く速度は違うから、抜いたり抜かれたりしながら進むことになる。それでも、結局は信号待ちで一緒になったりする。
必然、周りを意識し、歩調を調整し、間合いを計りながら歩く──。
柴田はこれが面倒臭いと感じる。どの電車に間に合うとか合わないとか、駅にいつ着くかじゃなく、彼は己の速度、自分のペースで歩きたい人間なのだ。
柴田が通るのは畑の間に伸びる細い道。自動車一台ギリギリぐらいの道で、当然の事ながら街灯なんぞ一つもない。自販機はなく、あるのは木で作られた農家の無人販売所だけだ。
真っ暗の道を抜けると住宅地に入り、そこからは街灯も幾つかあり、あとは縫うように進んで駅に向かう。これが柴田の出勤風景だった。
工場は、すこぶる寒い。
ライン付近はダクトから空調の風が出るので、それ程でもないが──。柴田のいる部品の集積基地にそんな文明の利器はない。
まぁそれでも、動けば寒さを忘れられる。早番は昼過ぎあたりから糞忙しいので、むしろ涼しくて快適なほどだ。
問題は遅番だ。
仕事が始まった直後はいい。忙しいから。しかし夕食後は仕事量が激減、ヒマヒマになり、夜の気温低下も相俟って体は冷え冷えになる。
チームメンバーの中には、スクワットをしてカロリーを燃やして凌ぐ猛者もいた。
柴田は夕食後にロッカーまで戻り、インナーの上からフリースを着込んで対処した。
おのおの、あれこれしながら寒気に耐える訳だが、寒いと、どうしてもトイレが近くなる。そのことで若本が。
「ここは、いつでもトイレ行けるから、めっちゃいいよ」
そんな事を言い出した。彼はトイレマンの異名を持つ者だ。
「ラインだとさ、いちいち人呼ばなきゃいけないからさ。冬場は本当に面倒だった」
しみじみと語っていた。
「それでもウンコしに行くんですよね?」
柴田が若本の快便さから冗談っぽく聞くと。
「勿論。俺、座れば出るから」
若本は自信たっぷりに答えた。
『座れば出る』
この日、柴田のいるチームに『四食』に次ぐ、新たな伝説が生まれた。




