第29話 ハツハツメニュー
──おっ・・ 新しいのがあるな。
柴田は食堂のメニュー表を見て思った。
工場の食堂はカテゴリーごとの日替わりだが、一週間分の献立は、週の初めに表示される。
表は食堂の壁などに貼ってあるが、社内ネットワークで共有されており、それぞれの部署でプリントアウトされていたりもした。
柴田のいるチームの待機場所にも貼ってあり。彼を含め、チームメンバーたちはメニューを見ながら。
「今日なんにするかな~」
などと言うのが日常のひとこまとなっていた。
昼休憩になり、食堂に移動した柴田は、うごんコーナーに並んだ。
本日のうどんメニューは『武蔵野うどん』である。冷たいうどんを、温かい肉うどんの汁に浸けて食べる料理だ。
存在自体は前々から知っていた柴田だったが、特にうどんに興味津々という訳でもなく、記憶の片隅にあっただけだった。しかしメニュー表で目にとまり、折角なので食べてみようと思い立ったのだ。
つけ汁だけに、やや濃いめの味付けで、まぁそれは、良くも悪くも期待通りであった。
柴田が意外に感じたのは麺で、極太で食べ応えがある食感だった。讃岐系とは違うコシで、柴田としては新鮮な体験だった。
食事を終え、柴田はチームの休憩室へ行った。
そこでチームの者に。
「今日なに食った?」
そう聞かれ、うどんの話をすると。
「俺、地元なんだよね」
と、自称武蔵野ッ子が名乗り出た。
その彼が。
「あれさ──。俺の子供のころはなかったんだよ」
と、言いだし。
「温かい肉うどんみたいな、そういう料理だったんだよ」
と、思い出の武蔵野うどんについて説明した。
更に彼は。
「ラーメンのさ、つけ麺とか出回りだした頃からだと思うんだよね、あのつけ汁方式。たぶんどっかの店が、つけ麺ブームに乗っかってやり出したんじゃないかって睨んでるだけどさ」
推測を交え、郷土の味について語った。
「そうなんですか」
「いや、たぶんね。だって、生まれも育ちも武蔵野なのに、俺知らんもん」
自称生粋の武蔵野ッ子は証言した。
ここで柴田は、ふと思いだし。
「あー。自分の地元も、大根おろしで蕎麦を食うのが郷土食みたいな感じだったんすけど。その大根って、特に特別な大根じゃなかったんですよ。それがいつの間にか、辛い大根を使わなきゃ駄目みたいな風に変わっちゃて。えっ、聞いてないけど? って状態ですよ」
自身の田舎の話をした。
「ハハハッ──。それもたぶん、どっかの店が辛いのでインパクを出そうとしたのが、広まっちゃったんじゃないの?」
武蔵野ッ子は言った。
普段の食後はまったりする事の多い柴田だったが、この日は、互いの地元話で、それなりに盛り上がった時間を過ごした。




