第21話 オコオコバスタイム
「おはよございまーす」
柴田が出勤して休憩室に入ると。
「おっ、おはよう──。いや~、見てないっすね。だって俺、向こうの風呂行ってますから」
坂上が黒井に言っていた。
「あっ、そうか。あれ、柴田は見た事あるか? 風呂にさ、でっかい袋持ってくる奴」
黒井が聞いた。
「ふくろ?」
「ビニール袋の中にシャンプーとか入れて・・」
ここまで黒井が言って。
「あっ──。見ました! はい、でっかい袋。あの、あれ、ゴミ袋ですよね?」
柴田はようやっと思い出した。
黒井と柴田は認識を共有できたが、他の皆はポカーンとしているので。
「えっと、普通シャンプーだの何だのって、風呂桶とか、風呂用のプラ籠とかに入れて持ち運ぶじゃないですか。それをゴミ袋に入れて来る人がいるんです。それも、何か四十五リットルぐらいのでっかい袋なんですよ。で、それを風呂場の床にバサーッと置くんですよ」
柴田は自身が見た、件の風呂場の人物について説明した。
「ええぇ・・ なにそれ」
寮生じゃなくとも、その異常性は伝わったようだった。
「よしんば袋だとしても、もっと小さくて手頃なのがあるやろっていう」
柴田は見たときを思いだし、ツッコみの言葉を入れた。
それで黒井も思い出したのか。
「あれさ。サンタクロースがプレゼント配るみたいな感じでシャンプー取り出してたぞ」
とか言うものだから。
「すげえなぁ」
坂上も言って笑いが起きた。
「で、柴田は他になんか見た、そいつのこと?」
黒井が問う。
「いえ。ほとんど入れ替わりぐらいで出たんで、袋しか見てないですね」
「そいつさ、桶もってねーのよ。で、どうすんだって思ってたら、風呂場の隅にあるゴミ箱あるだろ。あれ取ってきて、それ使ってバシャバシャやり出したんだよ」
黒井の言葉に皆、眉を顰めた。
「俺も、もう上がるとこだったから何も言わなかったけど、あとで管理人に話したら、そんな人がいるんですかって驚いてたわ」
「そりゃ驚きますわ」
また坂上が言って笑いが発生した。
その日の帰寮後──。
特に示し合わせた訳ではないが、柴田は黒井と同じタイミングで風呂に入った。
しばらくは何事もなく時間が過ぎたが、例の袋男が入ってきて状況は一変した。
「オメエ! それゴミ箱だぞ! 何考えてんだよ! 頭おかしいのかよ!」
黒井が袋男に対してブチ切れ出したのだ。
柴田は職場での黒井の癇癖を見ているから、慣れたものだが、風呂場にいた他の人達は戦々恐々としていた。
それは袋男も同じで、黒井に対して恐縮して。
「すんません。忘れてしまって・・」
言い訳してたが。
「オメエ、この間もゴミ箱使ってただろ! 何が忘れただよ。それ目当てにしてんじゃねーぞ!」
益々、ブチ切れてしまった。
以降、男の証言から部屋には風呂桶(寮、備え付けの品)があることが判明し、今度忘れたらタダじゃ置かんぞという黒井の脅し文句が出て、説教は終わった。
その後、袋男は、ちゃんと桶を持ってくるようになった。
柴田は。
──黒井さんみたいな人も必要だな。
強面の喧嘩っ早い人も、寮のような共同生活体には重要かも知れないと思ったりした。
しかるに、袋男は何故かゴミ袋だけはやめず・・
「オメエ! その袋もいい加減にしろよ!」
また、黒井がブチ切れていた。




