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キカンコ  作者: テンチョウ


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16/23

第16話 ビュービューマウンテン

 盆休みが来た。

 工場のカレンダーで十日間の休みだ。


 今更ながらだが、工場は日本国のカレンダー通りに休めない。単発の祝日は基本的に平日と変わらず仕事がある。

 工場が動いているということは、その関連企業も動いているということで、部品を運んでくるトラックなども同じである。


 柴田としては、日本の代表産業の自動車製造と、一般カレンダーとの乖離(かいり)が、何だかとても不思議な感じがしていた。彼自身、自分が働くまで知りもしなかった事でもあり、振り返ってみて。

──何で知らなかったんだろう。

 とか、思ってしまう。


 柴田も普通に、土日出勤の仕事をしたことがあるが、それとも違う感覚で──。

 銀行のイメージのせいだろうか?

 どこか無根拠に、大企業はカレンダー通りに動いているみたいに考えていたのかも知れない。


 休みを前にして、斯様(かよう)な内観を柴田は持った。



 仕事終わりに、チームリーダーから自動車のパンフレットが配られた。

 要は帰郷するにあたり、誰かに紹介して車を買ってもらうための資料である。先輩たちの話だと、紹介で売れると報酬が入るとのことだ。

 (もっと)も、誰一人として実際に紹介販売したことがないので、本当のところはわからない。


 車は当然、百万単位であるが、パンフレットの後ろの方には発電機も載っており、それは数万円であった。

「これでも紹介報酬入るんですかね?」

「さぁー?」

 やはり、誰もわからなかった。



 とまれ──。

 連休となった訳だが、柴田は実家に帰りはしない。だが、寮にとどまる訳でもない。実は柴田は、電車と徒歩で一時間半ぐらいの所に、ワンルームの一室を所持しているのだ。

 日当たり最悪の中古物件で、上の階の音も結構するが、出玄(デゲン)寮での生活を経験した今となっては「だんない」(大丈夫、かまわない)な問題でしかなかった。


 ちなみに、これは特異な例という訳でもなく。

 柴田と同じチームの坂上も、マンションに部屋があり、そこに趣味のギターや何やかんや置いているらしい。



 部屋に帰宅した柴田は冷蔵庫の中を確認する。

「まー、なにもない」

 そりゃそうだ。何かあったら大変なことになっているだろう。あるものは調味料関係だけだ。

 柴田は一息入れるでもなく、近所のスーパーに行き、挽肉とトマト缶とタマネギ、それからスパゲッティなどを買った。


 で、ミートソースのパスタを作って食べて、ゴロゴロした。



 それから連日、ほぼ同じような毎日を過ごした柴田は、休みの最終日に出玄寮に戻って来た。


 部屋に入り、空気を入れ換えようと窓を開けると。

「うわぁ。これすごい・・」

 思わず声が出る光景があった。


 出玄寮三階の窓、眼下には小学校のグラウンド、そして真っ直ぐ見据えた先には、夕日にそのシルエットをはっきりと映した富士山があった。


 今まで、この部屋から富士山が見えたことなど無い。

「もしかして盆休みだからか?」

 柴田は、あちこちの工場などが停止しているせいで、空気が澄んだため、富士山を視認することが出来たのではないかと推測した。

 無論、それが正しいのかはわからない。わからないが──。


 柴田は、なんだか日本という国の生態のようなものを見たような、ジオグラフィックな感慨を(いだ)いた。

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