第16話 ビュービューマウンテン
盆休みが来た。
工場のカレンダーで十日間の休みだ。
今更ながらだが、工場は日本国のカレンダー通りに休めない。単発の祝日は基本的に平日と変わらず仕事がある。
工場が動いているということは、その関連企業も動いているということで、部品を運んでくるトラックなども同じである。
柴田としては、日本の代表産業の自動車製造と、一般カレンダーとの乖離が、何だかとても不思議な感じがしていた。彼自身、自分が働くまで知りもしなかった事でもあり、振り返ってみて。
──何で知らなかったんだろう。
とか、思ってしまう。
柴田も普通に、土日出勤の仕事をしたことがあるが、それとも違う感覚で──。
銀行のイメージのせいだろうか?
どこか無根拠に、大企業はカレンダー通りに動いているみたいに考えていたのかも知れない。
休みを前にして、斯様な内観を柴田は持った。
仕事終わりに、チームリーダーから自動車のパンフレットが配られた。
要は帰郷するにあたり、誰かに紹介して車を買ってもらうための資料である。先輩たちの話だと、紹介で売れると報酬が入るとのことだ。
尤も、誰一人として実際に紹介販売したことがないので、本当のところはわからない。
車は当然、百万単位であるが、パンフレットの後ろの方には発電機も載っており、それは数万円であった。
「これでも紹介報酬入るんですかね?」
「さぁー?」
やはり、誰もわからなかった。
とまれ──。
連休となった訳だが、柴田は実家に帰りはしない。だが、寮にとどまる訳でもない。実は柴田は、電車と徒歩で一時間半ぐらいの所に、ワンルームの一室を所持しているのだ。
日当たり最悪の中古物件で、上の階の音も結構するが、出玄寮での生活を経験した今となっては「だんない」(大丈夫、かまわない)な問題でしかなかった。
ちなみに、これは特異な例という訳でもなく。
柴田と同じチームの坂上も、マンションに部屋があり、そこに趣味のギターや何やかんや置いているらしい。
部屋に帰宅した柴田は冷蔵庫の中を確認する。
「まー、なにもない」
そりゃそうだ。何かあったら大変なことになっているだろう。あるものは調味料関係だけだ。
柴田は一息入れるでもなく、近所のスーパーに行き、挽肉とトマト缶とタマネギ、それからスパゲッティなどを買った。
で、ミートソースのパスタを作って食べて、ゴロゴロした。
それから連日、ほぼ同じような毎日を過ごした柴田は、休みの最終日に出玄寮に戻って来た。
部屋に入り、空気を入れ換えようと窓を開けると。
「うわぁ。これすごい・・」
思わず声が出る光景があった。
出玄寮三階の窓、眼下には小学校のグラウンド、そして真っ直ぐ見据えた先には、夕日にそのシルエットをはっきりと映した富士山があった。
今まで、この部屋から富士山が見えたことなど無い。
「もしかして盆休みだからか?」
柴田は、あちこちの工場などが停止しているせいで、空気が澄んだため、富士山を視認することが出来たのではないかと推測した。
無論、それが正しいのかはわからない。わからないが──。
柴田は、なんだか日本という国の生態のようなものを見たような、ジオグラフィックな感慨を抱いた。




