【改良ダリアン暦1年103月28日】太田さんは上棟式がしたい その3
「紅白カルカン、240個出来たよー!」
◇
食堂の責任者、セルジュさんが建設部にカルカンを納品しにきた。
「一人3個拾える計算だよ。」
与圧服着て、現場が大勢でわちゃわちゃしてても、まあ一人最低一個くらいはなんとか拾えるかな。
「途中で食紅足りなくなってね、最後の20個くらいはトマト味だよ。当たった人はラッキーかな。」
それ面白いな。忙しいのにありがとうねセルジュさん。
「いやいや、僕も作ってて楽しかったよ。」
食糧生産部はほぼ全員居残りで、新任者が純増みたいな形になったので、だいぶ賑やかな部署になった。ソフィさんやセルジュさんの「調理部隊」も充実したので、こんな急で無茶な注文にも対応できるようになっていたのが幸いだった。正直、無理だって断られるんじゃないかとヒヤヒヤしていたのだ。
ところで、「カルカン」のことは説明しとかないといけないね。
だるまさーん、説明しといて。
◇
だるまじゃ。第一話ぶりじゃな。
そうか、わしはこういう使われ方をするんじゃな。承知したぞひろし。
さて、カルカンというのは、漢字で「軽羹」と書く。日本の鹿児島や宮崎、大分で作られる伝統的な和菓子じゃ。原料は自然薯と粗く挽いた米粉。これに砂糖を加えて蒸し、しっとりしたスポンジケーキのようにしたものじゃ。普通は羊羹の様な竿型にして切って食べるが、中にあんこを入れて丸めた「軽羹饅頭」にしたりもするな。
当初、コロニー内には畑がまだなく、水耕栽培しかできなかったから、小麦や米は大量栽培が出来ず、水耕栽培できる自然薯の仲間の「エアポテト」がほぼ唯一の炭水化物源じゃった。そこでソフィさんが、甘味類に飢えておった皆のために、これを使ったスポンジケーキを作ろうと色々調べた結果、日本の「軽羹」のレシピを発見した。それ以来、リトプス1の名物になったカルカンは、料理の付け合わせとして食べられてきたんじゃが、今回はこれを「上棟式」で屋根から撒かれる餅の代わりに使うようじゃな。
ミッキー、こんな所でいいか?
◇
はいありがとう。ってだるまさんまでミッキー呼びかい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そんなこんなで、あっという間に今日は28日。
上棟式本番の日だ。
◇
14:00。皆、仕事の手を休めて、与圧服を着て本施工区の採光ドーム群の前あたりに集まる。
そこには、既に大型運搬車両のタイプ2が回してあって、太田さんと僕、大アルバートの3人が既に屋根に上って、カルカンの入ったパウチを撒く準備をしている。
アルフォンソ先生が、完成した採光ドーム群の前に立つ。
本当なら、先生が神職の恰好で祝詞を上げたり四手を振ったりするのだが、与圧服を着てそれをやっても締まらないし、第一アルフォンソ先生は日本語の祝詞を読めない。
なので「採光ドームの方を向いて、適当になんかしゃべって下さい。」とだけお願いしてある。
そして、先生の声は、各自の与圧服のスピーカーから聞こえるようになっている。
さて、どうなるかな。
◇
アルフォンソ先生が、完成したばかりの本施工区の採光ドーム群の前に立つ。
そして、アルフォンソ先生による「祝詞」が始まる。
オリンポスの神よ、見ているかね
今日、我々のコロニーの採光ドームが出来上がった
この採光ドームから、朱天の光の恵みを地下へと導いて
我々は暮らし始める
この地球からのぶしつけな来訪者の営みを
これまで静かに見守ってくれた貴方に深く感謝する
どうか、これからも見守っていて欲しい
私達は、これからも貴方と共にここにある
そして、貴方の足元で
ささやかな命の灯をともし続けることを誓おう
オリンポスの神よ
明けない夜が来る前に
貴方にこのことを報告できたことを喜びたい
では、また逢いに来るよ
うーん、なんだか本当に神様の言葉みたいだ。やっぱ本物なのかな。
立派な祝詞でした、ありがとうございますアルフォンソ先生。
◇
それから、タイプ2の屋根の上から、紅白のカルカンのパウチを、皆に向かって投げた。
もう、3人で投げまくった。
皆、夢中になって拾っている。
太田さん、多分与圧服の中で涙ぐんでると思う。僕もちょっとうるっと来たかな。
やってよかった。上棟式。
でも、工事はこれからも続く。明日からは内殻の設置が始まる。
また忙しくなるな。




