【改良ダリアン暦103月25日】太田さんは上棟式がしたい その1
「ミカン。」
◇
それやめてって言ってるでしょ。
「だって発音しにくいんだもん、mikan-yamaって。」
外構建設班のラウラさん、僕のことをこう呼ぶのである。
いくらなんでも「ミカン」はないだろ。犬か猫の名前みたいじゃないか。
「mikan-yamaって英語で”orange mountain"って意味だったっけ?」
そうだけど。
「オレンジじゃ駄目?」
うん駄目。
「じゃあ、ミッキーでどうよ?」
……まあ、それくらいならいいか。
「よし、決まりね。」
そんなわけで、ラウラさんは僕のことを「ミッキー」と呼ぶことにした。そしてそれはあっという間にコロニー内に広まり、以来、僕の名前はすっかり「ミッキー」になってしまった。
◇
「ミッキー。」
太田さんまで。
「ごめんごめん。でもいい名前じゃないか。」
そう?
「それでなミッキー。」
はいはい。
「今、本施工区の洞窟の天窓に採光用のガラスドームを固定してるだろ?」
してますねえ。
「あれ、あと3日で全部終わるんだよ。」
全部でいくつあるんでしたっけ?
「26個。」
すごいなー。
「それでなあ、ミッキーにひとつ相談があるんだよ。」
何でしょ?
ここで太田さんは一呼吸おいて、僕に向かって想定外の言葉を発したのである。
「上棟式をやりたいんだよ。」
馬鹿じゃないの?
「餅、撒こうよ。」
…………
◇
太田さんのこの話には、もちろん幾つかツッコミ処がある。
ひとつ。採光ドームは屋根じゃないから『上棟式』になんないし。
ひとつ。餅どうすんの?
ひとつ。それどこから撒くの?
ひとつ。相談する相手は僕より大アルバートの方が良くない?
まあでも、太田さんのロマンもわからない訳じゃない。想像するとなんか楽しそうだしね。
とりま大アルバートに相談してみましょうか。
「うん、じゃあミッキーお願い。」
僕がやるんかい。
◇
「オオタさんにも困ったもんだよなー。」
ほんとほんと。
太田さんの話を聞いてから、その足で僕は管理部に相談に行った。だってやるの3日後だよ?すぐに相談しないと色々と間に合わない。
でも、管理部チーフの大アルバートは、別に驚いてないようだった。多分、一度遠回しにこの話をしてるんだろう。で、僕を相談に行かせたってことは、きっと一度断られてるね。子供か。
「でも、やってみるもの面白いかもね。」
忘れてた。彼もイベント大好きなんだった。『余剰電力どうするか会議』とかイベントみたいにしちゃった実績がちゃんとあるし。
「餅はソフィさんに相談するとして、問題は撒き方だよね。」
そう、それ。
「採光ドームの上には危なくて立てないから、タイプ2の屋根の上から撒くか。」
うん、多分それしかないよね。
「やろうぜ。」
結果ヤブヘビだった。大アルバートが乗り気になっちゃった。
◇
次回、火星史上初の上棟式、開催。
刮目して待て。




