【改良ダリアン暦119月18日】ペンローズタイルとクレープ
「誰だよ、こんな面倒くさいもの使うことにしたやつは。」
施工計画を見て、太田さんが最初に言った一言がこれ。
◇
本施工区は、今床下の配管と内装の工事が同時進行中だ。
配管工事の方の現場監督は取り敢えずモニカさんに任せて、僕は広場の施工管理をやる。
まず何をやるかって?
木を植えるんですよ。そう、世界樹(笑)。
広場の真ん中に用意された植栽スペースに、給排水設備をとりつけたら、そこへベッカーさんが造った人工土壌を入れる。小型のバックホウを入れて作業するので、広場の床なんかはその後で作業する。そうしないと、せっかく敷いたタイルが割れてしまうからね。
タイル?そんなもの敷くの?
うん、後で説明するよ。これが大変なんだ。
◇
先ずは「世界樹」の話から。
何植えるのか気になるでしょ?
これ、結構悩ましかったそうです。
要求される条件は以下の通り。
① 余り大きくならない樹種であること
② 直根性でないこと(植え枡が浅いからね)
③ 光要求性が強くないこと(日陰に強いってことね)
④ 美しい姿をしていること(これ大事)
①については、火星の重力も考慮しないといけない。なにしろ火星は地球よりも重力が小さいので、地球での樹高よりもだいぶ大きくなるらしい。
で、色々検討した結果、最終的に残ったのは、なんとも意外な樹種だった。何だと思う?
・コーヒー
・カカオ
・茶の木
全部飲み物じゃん(笑)。
結局、③の「光要求性が強くないこと」という条件から、候補種は林床に生育する低木に絞られた。また、どれも農産物で栽培方法が確立しているのも大きな理由となった。
で、結局どれにしたのか?
選ばれたのは、コーヒーだった。理由は、光要求性が最も小さいこと、それから、自家受粉で実がつく系統(アラビカ種)があったことが決め手になった。広場のシンボルツリーだけど、どうせなら収穫もしたいしね。
苗は、アリシアさんが種子更新用のファイトトロンで育てた、一年生の小さな苗が植えられた。
どこまで育つか、楽しみだ。
…………………………………………
さて、今度は広場のタイルの話。
太田さんが「めんどくさい」って言ったのは、この広場に使うタイルが、ちょっと特殊なものだったから。その名は「ペンローズタイル」。
これ、物理学者のロジャー・ペンローズという人が考案したもので、矢尻型と凧型の2種類のタイルを使って床面を埋めていくのだが、これを敷くときに「矢尻型と凧型を組み合わせた菱形をつくるのは禁止」という規則を与えるだけで、同じパターンの繰り返しがなく、規則的なようで規則的でない、不思議なパターンが現出するのである。
ということは、だよ?
規則的なパターンがないから、タイルを敷いた模様をプリントした四角い床材を作って、それを敷き詰めてお終い、という手抜きが出来ないのである。
人の手で、一枚ずつ貼っていくしかないのである。そりゃあ太田さんでなくても「面倒くさい」って言いたくなるよね。
ちなみに、これ設計したのは、世界樹を植えることにしたエドワードさんだけどね。
…………………………………………
さて、今夜の「越夜祭」は調査部と食料生産部。
調査部はパネル展示だ。これまでの調査研究結果をパネルにして展示してある。テオドーロ君は鉱物の展示。パヴァンさんは金属製錬の過程をパネルと実物で展示した。パネルの脇には発表者が控えているので、色々と質問も出来る。一番人気だったのはサラザールさんの天文写真。なお、これらは適宜入れ替えながら、「明けない夜」の間ロビーに常設展示されるそうだ。
そして、食料生産部の出し物は、やっぱり食べ物。クレープの屋台だ。ソフィさんとセルジュさんがクレープを焼いて、大豆クリームやずんだ、チョコレートソースやジャムなんかを巻いて出してくれる。勿論無料だ。チョコレートソースとジャムは地球からの物資だけど、大豆クリームとずんだは火星産だ。
クレープの皮は二種類。イシクラゲ入りとエアポテト入りだ。どっちも思っていたより美味しい。
というわけで、今日はデザートつきの学会?みたいな感じになった。いやなかなか勉強になりました。




