【改良ダリアン暦1年119月2日】明けない夜のために その4
採光窓が明るい。
まあ、今は昼前だから当たり前なんだけど。
◇
ロビーの採光窓の下のソファでくつろぐ。今日は休みの日だ。
オリヴィア先生からは「まめに日光浴をしなさい」と言われているので、暇な日は一時間くらいここで日光浴をする。といっても、火星の秋の弱い光では、日光を浴びている、という実感は正直薄いが、きっと皮膚の下では細胞がせっせと働いて、ビタミンDを作っているのだろう。そう思うことにしよう。
とりあえず昼食までここで本を読んで過ごす。タブレットじゃなくて紙の本だ。たまにはディスプレイのバックライトから目を離して休ませたい。
何を読んでるのかって?
「さんすくみの三養堂」。日本の時代劇だよ。これ面白いんだ。
◇
「ミッキー。」
太田さん。
「何してんの?」
日光浴。
「オリヴィア先生に言われたんだろ。」
それ。太田さんは筋トレやってたの?
「そうだよ、まあ恰好見れば分かるか。部屋に戻る前にちょっと一休みしたくなってな。」
太田さんも、もういい年だからね。
「それな。若いころみたいにスタミナが続かなくなってきたなー。」
お疲れ様。
お互い、話をしていると仕事の話題になりそうなので、適当に話を切り上げる。
今日は休みの日だ。
◇
あと少しで、二度目の明けない夜がやってくる。
今回は準備万端で迎えるので、何の心配も要らないはずなんだけど、僕や太田さんみたいな居残り組は、ぎりぎりで何とか切り抜けた前回の記憶があるから、どうしても不安な気持ちが残っている。その不安な気持ちが、やることがない今日みたいな休みの日には、ふと心に蘇ってきてしまう。
トラウマってやつだな。
このトラウマを吹き飛ばしてやろうっていうんで、外出が出来なくて暇になる調査部を中心に、何やらイベントが計画されている、という話も聞こえて来る。
イベント好きの大アルバートも何かたくらんでそう。最低でも「ラジオ・ヴァーミリオン」の放送枠拡大くらいはやりそうだな。食糧生産部も、「明けない夜」に備えた電源転用でイシクラゲ栽培施設の電源を落とすから、その前に全部収穫して、ソフィさんがまた何やら試作して試食会を開く、なんて話もあるみたいだし。
まあ、そうやって派手に吹き飛ばしたくなるくらい、前回のトラウマがきついものなのも事実。みんな、一時は本当に死ぬかも知れないと覚悟したからね。
リオコさんのギターが聴けないのがちょっと残念だけど。帰還しちゃったからね。
「大聖堂」、もう一度聴きたいな。
◇
採光窓が明るい。
まあ、今は昼前だから当たり前なんだけど。
そろそろ昼ご飯にしようかな。




