【改良ダリアン暦1年106月3日】アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ その2
ラウラさんアームを止めて!しばらく動かさないで。
「……わかってるわよ。」
◇
ラウラさん、すぐにバックホウのアームを止めて、内殻パネルの揺れが収まるのを待つ。
彼女、意外に冷静に対処している。
良かった。事故にならなくて済みそうだ。
◇
パネルの揺れが収まったところで、バックホウをゆっくりと前進させ、パネルの据え付け位置まで慎重に運ぶ。所定の位置に来た所で、作業員がパネルをつかんで、「ゆっくり下げろ」の合図をする。
パネルが、土台(というか治具)の所定の場所に納まる。それから固定・接合作業が始まる。
これ以後、ラウラさんのバックホウの作業速度はゆっくりになった。
◇
「ごめんなさい。」
ラウラさんの対応が早かったから、事故にならずに済んだよ。結果オーライだ。
でも、作業日報には書いておいてね。今後のためだから。
「……はい。」
彼女、ちょっと可哀想なくらいしょげかえっている。こんなにへこむくらいなら最初からあんなことしなければ良かったのだが。
でも、なんか引っかかるのである。建て込み作業の不用意なペースアップが危険なことくらい、彼女も十分に分かっている筈である。なんでそんなことをしたのか。僕が作業工程を作ってる時にも茶々を入れに来たけど、正直「今それ言う?」みたいな感じがあった。なんというか、なーんか違和感があったのである。
そう、まるで誰かに言わされてるみたいな。
ラウラさん。
「はい。」
変なこと訊くけど。
「……何?」
もしかして、こっちに赴任するときに、機構の管理部から何か言われた?
「…………うん、言われた。」
やっぱり。
◇
「それな。」
太田さん知ってたの?
「大分前だけど、まず最初に、正面切って俺んとこに言ってきたんだよ。」
メールで?
「メールで。宛先俺だけな。」
いやなやり方。
「で、そん時は俺が突っぱねたんだ。確かに工程は遅れてるけど、それより安全優先だってね。」
さすが太田さん。
「せっかくローランドさんが作ってくれた安全第一の施工手順を、俺の勝手な判断で崩したくなかったしね。」
で、クルー交代がいい機会だってことで、施工担当の新任クルーに何か言い含めた、と。
「多分、土木建設部の新任者全員に言ってる筈だよ。俺が機構の腹黒担当だったらそうするね。」
そういう連中って、『明けない夜』の電力不足事件の時に全員解任されたと思ってたけど。
「残ってたみたいだな。こんど機構に遠回しに柔らかーくメール入れとくよ。アルフォンソ先生と連名でな。」
それいいな、お願い。
◇
「お疲れ様、3人とも食堂に来て!」
作業が終わって、反省会も済んで、試験施工区に戻ってきたら、ダニエラが待ち構えていた。今日の一件は、もう食糧生産部にまで聞こえていたらしい。
またアーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ?
「今日はバジルトマトソース。もちろん冷凍じゃなくて出来立てよ。アニタ姐さんが食べさせてやれって。」
今日は公認なんだね(笑)。
「私はアーリオ・オーリオ・ペペロンチーノがいいな、まだ食べてなかったから。」
ラウラさんが言う。
「大丈夫!あるわよ。ビールも持ってくるね。」
◇
それから3人で、ダニエラ自慢の手打ち麺のスパゲッティを食べた。
いや、これがなかなかビールに合うんだな。
しょげかえってたラウラさんも、アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノで元気が出たみたいだ。
うん、また明日もがんばろう。
よろしくねラウラさん。




