【改良ダリアン暦1年106月2日】アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ その1
「アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ!」
◇
何だって?
「ミッキーお疲れ様。お昼にはちょっと早いけど、これ食べてね。おいしいわよ。」
どん。
食料生産部のダニエラが、僕が作業工程を検討しているPCの脇に、結構な盛りのスパゲッティを置いていく。何だよこれ。でも美味しそうだな。
「この前の便で、地球からデュラムセモリナの種子が来てたの!それがようやく収穫できて、いまスパゲッティを量産してるとこよ。」
……そう、良かったねダニエラ。スパゲッティ食べたいってずっと言ってたもんね。
「そうなのよー。じゃね、仕事頑張って。」
はい。
とりあえず食べてみるか。昼にはちょっと早いけど。
うん、美味いな。辛さはちょっと控えめだね。オリーブオイルの香りがいい。麺は手打ちの平打ち麺だ。まだコロニーには製麺機がないから、ダニエラが頑張って打ったんだろうな。いい出来だよ。まあ、配って自慢したくなる気持ちはわかる。
◇
「アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ!」
はい、アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ。
「ダニエラが来たでしょ!」
今度はアニタ姐さんが来た。何事だよ。
「あの子、保存食用に作ったスパゲッティ、作る端から皿に盛って配って回ってるのよ!」
え?
「スパゲッティがメニューに加わって嬉しいのは分かるんだけど……全く、こっちにも作業の予定ってもんがあるんだからね。これじゃ仕事になんないわ。」
……えーっと、これ返した方がいい?
「いや、それは大丈夫だから、いいのよ食べちゃって。おいしいでしょ?アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ。」
うん、すごく美味しいよ。アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ。
「じゃ、またね。……あっ、ダニエラー!」
……アニタ姐さん、大変だな。
それにしても美味い。これはセルジュさんの味付けだね。
◇
さて。
内殻の設置工事なんだけど、今、僕が工程管理をやっている。溶岩洞窟は広いんだけど、設置作業が進むに連れて空いた作業スペースは少なくなってゆく。その中で、重機を動かしながら、作業員の動線やローテーションも考えて作業工程を立てるのは、実は結構難しいパズルだ。工程は、正直遅れ気味だ。何処かで立て直したいが、無理は禁物だ。あくまで安全最優先で作業計画を組んでゆく。この作業計画の作り方をまとめた「作業計画作成手順書」は、この間地球に帰還したトンネル部隊のローランドさんが残してくれた、大事な置き土産だ。
「まだるっこしいわね。」
ラウラさんが横槍を入れに来る。
「予定より遅れてるんでしょ?確認作業の一部を省いて手間を減らすべきよ。あと、作業時間ももう少し減らせるはず。」
駄目だよラウラさん、工程は詰めなきゃいけないけど、確認作業を省くのは良くない。それに洞内の作業は与圧服を着てやるから、あまり無理が効かない。だから作業のピッチをギリギリまで詰めるのは良くない。そこまでやると、作業員が石につまづいただけで事故になりかねない。
「用心深いこと。」
ラウラさんは、議論を避けて話を切り上げた。ところで、今ダニエラが配って回ってるスパゲッティ食べた?
「食べてないけど、何それ?」
アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ。
◇
翌日、内殻の建て込み作業の日。
今日は僕も重機のオペレーターとして作業に加わる。隣にはラウラさんもいて、二人でバックホウを操作し、アームをクレーンとして使って、プレキャストの内殻の部品を一つずつ土台の上に立ててゆく。
バックホウの操作は、洞内の隅に建てられた小さな現場事務所の中から、遠隔操作で行う。与圧服を着たままでは、細かい操作ができないからだ。そして、外では与圧服を着た作業員が、玉掛けや内殻の接合、固定作業を行う。バックホウのオペレーターは、外の作業員と密にやりとりをしながら、危険の無いように、手順通りに慎重に操作を行わなければならない。
建て込み作業が進んでゆく。
と、オペレーター室に外の作業員からの声が入ってくる。
「2番、早い早い!建て込みが追いつかない。もう少しゆっくりやってくれ!」
2番機はラウラさんだ。
「これでもスピードを落としてるのよ!玉掛けが遅いからその分移動を早くしなきゃ遅れちゃうでしょ!」
「吊り荷が揺れてるぞ!危ない!」
まずい。事故になる。
つづく。




