【改良ダリアン暦1年106月12日】明けない夜のために その1
ピピピピピピ………
ブーン…ブーン…
ひろし、起きろ。
朝だぞ。
◇
ひろしは、昔から朝が弱い。
それは本人も良く分かっていて、それでこうしてわしを目覚まし時計に改造して連れてきた。
わしの目覚ましは、三段階でしつこく起こすようになっている。
第一段階は、アラーム音。まあ目覚まし時計としては普通これじゃよな。
だが、これで素直に起きて来るのは、まあ3回に1回くらいかな。
第二段階は、振動。枕元の棚は金属製じゃから、振動が加わると棚全体が共振してブーン、ブーンと言う感じの、結構大きな音になる。まあ3回に2回弱くらいはここまでで起きて来る。
それでも起きない時?たまにあるぞ。
その時は、わしの底に取り付けられた車輪が動いて、棚から落ちてひろしの脳天を直撃することになっておる。自分で言うのも何だが、これ、結構痛いと思うぞ。
ガン。
……今日は最後まで行ったな。
おはよう、ひろし。いやミッキー。
◇
はい、おはようだるまさん。
痛かったけど、こうなるように作ったの自分だからね。まあ、第二段階迄で起きれば痛い目に遭わなくて済むんだけど。
今日は午前中は進捗会議。午後はまた内殻の設置作業だね。工程は少しだけど予定に追いついてきた。
真ん中にある一番大きな「広場」のスフェア(内殻)は形が見えてきた。このスフェアは、他の居住用スフェアよりも二回り程大きく、背が高い。形も上半分が少しすぼまった形をしている。真ん中に木を植える関係でこんな形になった。
丁度あれだ。「だるま」のような形。最終的にはこれをワイヤーで外殻のアンカーに吊り、半分宙に浮いたような形で固定する。スフェアの保温のためだ。ただし、固定のためのワイヤー張りは、全てのスフェアが出来てからでないと作業出来ない。ワイヤーを張ってしまうと、スフェア建て込み用の作業スペースが無くなるからね。
それまでの間、スフェアは大きな土台のような治具で仮固定をしておく。そう、だるまさんが転ばないようにね。
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さて、今は火星月の106月。
地球でいうと3月くらいで、春はまだ始まったばかり。でも日差しははっきりと強くなりはじめ、気温も上がってきた。と、サラザールさんからは聞いている。
この間地球に帰還したリオコさんが担当していた気象調査関係の仕事は、今、天文担当のサラザールさんが引き継いでいる。この人も、リオコさんに負けず劣らずの博識ぶりで、いろんな分野の知識や技術を持っている。ギターが弾けるかどうかまでは知らないけど。
そのサラザールさんによれば、気温上昇に伴い、そろそろ南極圏でドライアイスの気化による急激な大気圧の上昇が始まっているはずだという。本当は実地で調査して確認したいところだが、火星がいくら小さいとはいっても南極圏は遠い。ミニ人工衛星が打ち上げられればその辺のデータもとれるようになるはずだが、まだ打ち上げには至っていない。
だが、人工衛星打ち上げ用のミニロケットの開発は、だいぶ進んでいるようだ。「花火大会」なんて揶揄されながらも、リイリイさんとダニエルさんのコンビは着実に開発を進めてきた。火星初の人工衛星打ち上げまで、もうそんなにかからないはずだ。
地球から届く観測データによれば、この間、今年初の小規模な砂嵐が観測されたそうだ。やがて、こうした砂嵐が次々に南半球の各所で発生し、やがて、それは合流して大規模な砂嵐に発達し、我々のいる北半球にも押し寄せて来る。
◇
また来るんだ。
あの「明けない夜」が。




