七十六話目
私達は家に帰ってきて、零夜も含めて3人で椅子に座っている。空気は少し重い。私と千波弥は零夜と向かい合うように座っている。席に着いているけどだれも話そうとしない。すると、ようやく零夜が口を開いた。
「昨日の件は、どこまで話したんだ?」
「ほぼすべてね。こっちでは血のことも見せたわ。まぁ、見せてからが中々にね・・・」
「それはこいつが悪いとして・・・。となると、怪我もか?」
「・・・うん。リスカ跡もアザもね。全部見せたよ。あ、ちなみに理音さんや桜空さん、宮葉さん達にも見せたから」
「理音さん?」
私が補足して、何人か他の人に見せたことを伝えたら、零夜は不思議そうに名前を反芻した。私もキョトンと首を傾げる。零夜の反応がよく分かってないから。すると、千波弥が慌てて零夜に教えるように声を出した。
「理音さん、桜空さんっていうのは癒音の両親。宮葉さんは琴吹家に仕えている執事さん。仕事の方でも手伝っているわ」
「あぁ、なるほど」
「・・・あれ?説明してなかったっけ?」
「されてねえよ・・・」
零夜と千波弥は同時にため息をついた。私は首をコテンと傾げた。そんな私を見て2人はまた深いため息をついた。
「そうだったな、こいつはこういうやつだったな」
「えぇ。なにかと、私達のどっちかに言えば2人に行ったと思うことが多いのもあって余計にそうなるわよね・・・」
「あぁ。ホントそのクセ直してくれ・・・」
「?クセじゃないよ?」
「はぁ・・・ホントたちが悪い・・・」
零夜と千波弥は顔を見合わせて、肩をすくめ、零夜がうつむいて言った。どこか気疲れが見える。私は不思議に頭を傾げて零夜に声をかける。
「大丈夫?零夜」
「ホントこいつは・・・!・・・はぁ・・・」
「この子は自覚無いんだから。ね?」
「ちょっと、何が自覚無いって言うの?」
「自分の胸に手を置いて、貴方自身に聞いてみたら?」
「どういうこと?」
「自分に聞いてみなさいよ。そしたら少しは分かるんじゃないかしら?」
私は千波弥に言われたとおりに胸に手を当てて考えるけどよく分からない。私は首を傾げてうなる。それと同時にさっきの千波弥の声が少し冷たかった。
怒ってるのかな?
私は千波弥に怒ってるかどうか聞くために口を開く。
「千波弥怒ってる?」
「怒ってないわよ。それよりも少しは分かったかしら?」
「全然。それと、やっぱり怒ってるよね!?声が少し冷たいよ!?」
「気のせいよ、気のせい」
「そうかなぁ・・・?」
「えぇ。そうよ。気のせいよ」
「そっかぁ・・・。ふわぁ・・・」
私は大きくあくびをした。既にお風呂は入っていて、髪も千波弥が乾かしてくれた。なんか千波弥がいると、私がお風呂に入ったあと私の髪を乾かそうとしてくるのは何でだろう。私があくびしたのを見て、千波弥と零夜が同時に私に聞いてきた。
「「眠いの(か)?」」
「少し・・・」
「・・・船をこぎ始めたわね」
「なにぃ・・・?」
「ホントに眠そうだな。まぁ、俺は聞きたいことを聞けたしもういいが・・・」
「それじゃあ、優月。行こっか」
「ん・・・」
私は千波弥の手をつかんで立ち上がって、千波弥に引っ張られて自分の部屋に向かう。寝ぼけ眼で零夜のことを見たら、なんか複雑な目で見ている気がした。私はおぼつかない足取りで自室に入る。千波弥に促されて横になる。千波弥は横になった私の頭をなで始める。私はなでられながら眠りについた。
「寝たのか?」
「えぇ」
私がリビングに戻ると、零夜が聞いてきた。
「また撫でて?」
「・・・だって可愛いじゃない、あの子」
「まぁ、あまりとやかく言わんけど。お前、優月のこと好きなのに本当にアプローチしなくていいのか?」
「・・・私はあの子と付き合う資格は持ってないから」
「だからあの2人に譲ると?」
「あの2人に便乗してやるくらいがちょうどいいのよ。私は貴方と同じで救えなかったんだから・・・」
私は自嘲するように笑ったわ。音はとてもかわいているように感じた。
私も付き合えるのならば付き合いたいけど、心がそれを許してくれないの。だったら私は負けヒロインでも、幼馴染という立場に甘えていたいの。少なくとも、高校まで続いたのなら・・・切れることは少ないと思っているから。
「・・・お前がそういうスタンスなのは分かった。けど、俺は誰かに肩入れするとかはしないからな」
「それでいいわよ。あぁ、それと零夜。忠告よ。この前は入ってきた璃空には気をつけなさいよ。何か悪いことではないけど、貴方の取り巻く環境が変わると思うわ。・・・いいえ、きっと変わるわ」
「・・・それも女の勘か?」
「そうね。そんなものね」
彼はため息をついてから、頷いた。私達は持ってきた荷物を持って優月の家を出た。合鍵で、玄関を閉めるのを忘れずに。




