七十四話目
「で、これからどうするんですか?この場所で何かするみたいですけど・・・」
「図太いというかなんというか・・・。雰囲気重くした本人だよね?」
「慣れてますから。重くしたところでしないけないことに変わりないですし」
私は笑いながら答える。本当に慣れたとしか言いようがないからね。何度も何度も説明して、重たくなるのなら、私は軽く言うだけ。流すだけ。それが正しいから。後腐れがあまりないから。
「すみません、理音さん、桜空さん。この子、こういう子なんで・・・」
「千波弥は私の保護者か何かなの?」
千波弥のことをジト目で見つめる。千波弥は逆に睨みつけるように返してきた。私はすぐ目線を逸らす。
「違うけど、似たようなものでしょう。親も、親戚もいないあなたからしたら」
「・・・否定はしない」
「あ、アハハ・・・」
「不思議な関係だね?幼馴染でもあって面倒を見る相手?」
「そんな感じね。この子の、本来の時は止まったままだし」
「ちょ〜とー?千波弥〜?流石にそれは看過できないんだけど?」
「本来の時・・・ですか?」
私は少し慌てて千波弥のことを止めようとする。千波弥は意に介さず、話を続けようとする。本来の時。そのことを、由理子ちゃんが千波弥に聞く。私は千波弥へ言わないようにと視線を送る。
千波弥はその視線に気づいて、私のことを見た。けれど、私のことは一蹴して千波弥が知る範囲のことを話し始めた。
本来の時。私は成長しているようで、成長できていない。物理的な意味では身長も伸びたし、体重も増えたけどそういう成長じゃない。心。精神の方はあの日以降止まったまま。
「それはこの後のことをしながらでもいいかしら?先にすることの説明をしたいのだけど・・・」
桜空さんが口を挟んできた。確かに休憩時間の終わりのチャイムは鳴った。だから、こう伝えてきたんだと思う。
「ならそうしましょう。皆もそれでいいわよね?」
千波弥の問いかけに私達は頷いた。それを見た桜空さんが説明を始める。
「ここでは理音や私達がどんなことをしているのかやってもらうわ。主に書類整理のようなものだけどね。それこそ、社長しか認可できないようなものをやるわ」
「皆には手伝いのような感じでやってもらおうと思ってるんだ。事務室でやったようなことをしてもらおうとね」
「わかりました。つまり、事務室でやったことの少しレベルが高いものと言った感じですね?」
「今はその認識でいいよ。それじゃあ、宮葉」
「はい」
宮葉さんが書類を机の上にドンッと置いた。思った以上に多くてびっくりした。
「目を通して問題ないかどうか判断してほしいんだ。桜空や宮葉もサポートに入るから何か困ったことがあったら聞いて」
「はーい」
「それじゃあ、始めましょうか」
私達は早速、取り掛かる。取り掛かってすぐに千波弥が話し始めた。
「・・・さっきの続き。優月の本来の時が止まってる話なんだけど・・・」
「それってどういうことなの?本来の時っていうのは・・・」
「心がね。成長できてないのよ。今でも、7年かしら?ずっと引きずっているの。あの日、優月の妹も亡くなってからね。そうよね、優月」
「・・・ん。そう。止まったまま。だから、墓参りにも行けてないし、向き合えてない」
だって、怖いから。私が、あの日出かけようと言わなかったら。事故に遭うこともなかった。両親が死ぬことも、知奈が死ぬことも。私の目が壊れることもなかった。恨まれてるんじゃないかと、そう考えてしまう。そうじゃないと思っていても。
「だから、私は止まったまま。成長できてない、ただの子供・・・!」
私はペンを握る手に力が入る。
私の力じゃ、折れるわけないけど。
「だから私は本来の時と言ったわけ。偽りでしかないのだから」
「そう・・・なんだね」
「だから止まったまま・・・なのですね」
「本来の時・・・止まったまま・・・」
「ま、そういうわけだから。以上!この話はやめよっか。続けるよー」
私は雰囲気を変えるように明るい声で、元気よく言った。みんなは苦笑いしながらも、切り替えて今の仕事に取り掛かった。




