七十一話目
「・・・・・・優月、傷のこと、言うの?」
「・・・どっかのタイミングでは。でも・・・今じゃないからね」
私と千波弥は声を潜めて、癒音ちゃんと日高さんに聞こえないように話す。
話しているのは私の傷について。今でも至る所に殴りや蹴られた跡があるしね。それに・・・。私はチラッと、自分の左腕を見る。
「また・・・やったの?」
「・・・うん」
「やっぱりやめれない感じなの?確か・・・中学入ってからよね。やり始めたのは」
「そう。じゃないと・・・自分が壊れそうで。いや、まぁ、もう既に少し壊れてはいるとは思うんだけど・・・」
「まぁ、あまり感情を出せなくなってるからだったわよね?」
私は小さく頷いた。千波弥と零夜。それと2人の家族には伝えたことがあるけど、普段の方だと私は自分のことが分からない。だから、自分が生きている、または自分だという理解をするために自傷している。
「今月だけで何回やったの?」
「・・・8回」
「8回!?」
「こ、声が大きいよ・・・!」
私は慌てて千波弥のことを止める。千波弥が大きな声で驚いたから前にいた2人が振り返って、こっちを見る。癒音ちゃんが近づいてきた。
「2人とも、何話してるの?8回ってなに?」
彼女は純粋に気になったから聞いてきている。私は千波弥のことをジト目で見つめる。千波弥は申し訳なさそうに目を逸らした。
「気になるから教えてよ〜」
私は千波弥にアイコンタクトでどうするか聞いた。千波弥は少しだけなら、教えていいんじゃないかと返してきた。
「・・・自傷。リスカした回数だよ。今月の」
「え・・・?」
「ちなみに先月、1ヶ月は?」
「確か・・・13回程」
「はい?」
「多くないかしら?だいたい2日に1回のペースでやってるじゃない」
「千波弥は理由知ってるからいいじゃん。知らないのは3人だけじゃん」
「それはそうだけど・・・」
千波弥は苦渋の顔をしながら、私の言葉に頷いた。
「リスカってこと・・・?」
「うん。私が自傷するのはリスカ。今だって、両腕にリスカ跡あるし」
「だから・・・毎日長袖で?」
「そういうこと。だから私の私服には半袖はあまりないんだ。あってもその上から必ず長袖のカーディガンとか羽織るからね」
「だから、こんな夏の時期なのに長袖なのね」
私が癒音ちゃんに説明していると、日高さんが私達の会話に入ってきた。私は急に話に入ってきた日高さんに驚きつつも、頷いて返す。
「そうです。この下にありますから。あまり見せたくないですけどね・・・」
「いやいや流石に見せてとは言わないよ!?」
「ならいいですけど・・・」
「千波弥ちゃん達は知ってたの?こうしていることを」
「・・・えぇ。止めてもやめてくれないんだけどね」
「自分が自分であるためにやってるんだから」
「優月ちゃんが、優月ちゃんであるために・・・?」
癒音ちゃんは不思議そうに頭を傾げた。日高さんは何か分かったようで私に聞いてくる。
「もしかして、自傷して自分を保つため?」
「ッ!?分かるんですか?」
「なんとなくだけど、そう思ったの。あの言い方的にそうだと思ったからね」
「・・・その通りですよ。自分という存在を生きていると思うために自傷してるんです」
「いい加減やめてほしいものなんですけどね。自分達幼馴染からしたら。ね、優月~?」
千波弥が仕返しとばかりにジト目で見てくる。私は千波弥から目を逸らす。
「ねぇねぇ、千波弥ちゃん。もしかして、他にも跡が・・・?」
「えぇ。あるわ。特に、服の下に隠れている上半身がね・・・」
「腕とかじゃなくて、お腹とかそういう場所?」
「そう。私や零夜でさえ見るのをためらいたい跡がね・・・」
私の後ろで千波弥と癒音ちゃんが声を潜めて話している。私の傷跡のことについて話している。私はあの青アザがある場所をさする。千波弥はそんな私を見て、顔を歪ませた。ここは小学生時代からの傷跡だから、特に千波弥達は後悔にさいなまれている。
「皆が大丈夫なら見せるから。まぁ、気分がいいものじゃないけどね」
「傷跡だからね・・・」
癒音ちゃんは少しうつむいて、私がさすっているところを見る。私はさするのをやめた。他にも傷跡はあるけど、私にとってもここの傷跡はあまり見たくないし、見せたくないものだから。




