Side:奴隷騎士のドレイファン
マントを受け取ったサキの後ろ姿を見届けた奴隷騎士は、満足げに天を仰いだ。
「フッ……。今日もまた、運命に至る道を舗装してしまったァ……」
――奴隷騎士を自称するこの男の名を、ドレイファンと言う。
ドレイファンは、女神Xの力によってこの世界に叩き落されたサキを密かに見守ってきた人物だ。
ドレイファンは、サキを女神Xに至らせようと試みている。
そのために、時にはサキに力を貸す。先ほどマントを与えたように。
だが、ドレイファンの行動はあまり許される行動ではない。
霧深き渓谷を渡ってきた鹿が、ドレイファンに警告を発した。
「お主の介入は度が過ぎる。ルールを逸脱しているのではないか」
鹿は古き時守りだった。
ドレイファンは鹿の問いかけに答えた。
「いいえ、わたくしはただ適切な介入をしているだけです。今の行為とて、適切なもの。
その気になれば、もっと高度な道具を与えることもできました。ただの布切れではなく、遥か未来の技術で作られた魔法のマントを与えても良かったでしょう。
しかし、わたくしはそうはしなかった。なぜならば、適切な介入こそが重要だと考えているためです」
「ほう」
「誓って宣言しましょう。わたくしはあの方が女神に至る道を整えているだけだと。
それも、適切な方法で」
鹿はつぶらな瞳を瞬かせた。
「……そこまでしてあの者を女神に仕立てあげたいか?」
「ええ、もちろん。わたくしはドレイファン。運命の奴隷なのですから」
ドレイファンは礼をして、その場から去った。