一幕 静かに来るもの
途中の幕からお越しの方へ。
本作は一章から続く物語です。第一話はこちらから。
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ひとつ。ふたつ。
やがて十を越える影が、滝裏の暗がりから静かに滑り出てきた。
武具をまとっているはずなのに、音がない。
鎧の擦れる気配も、刀の鳴る音もなかった。
岩を踏む気配だけが、遅れてわずかに届く。
その異様な静けさに、戌助は目を細める。
戌助たちの船は岩陰へ身を潜めていた。
影たちは一度もこちらを見ずに、
まっすぐ石門へ向かっていく。
先頭を歩く影だけが、一切足を止めなかった。
まるで、そこに何があるか初めから知っているようだった。
重い石門の前で、何人かが立ち止まる。
短いやり取りも聞こえない。
次の瞬間。
門へ垂れた白札が、かさり、と揺れた。
ぎ……。
あれほど開かなかった巨大な門が、
当然のように、ゆっくり口を開く。
戌助の喉が、わずかに鳴った。
「……何者だ」
思わず零れた声の背後から、落ち着いた声が返る。
「尋常ではありませんね」
振り向けば、福童がすでに起きていた。
衣も整え終え、鋭い目で外を見ている。
やがて、その視線が船内へ戻った。
福童が、わずかに眉を寄せる。
「……小左ヱ門がいない……」
戌助の表情が変わった。
寝具は乱れたまま、まだ温もりだけが残っている。
置かれていたはずの刀も消えていた。
出てから、そう経ってはいない。
「先に行ったか……」
戌助の胸の奥が、嫌にざわつく。
遠くで、門が動き出す重い音が響いた。
ごう……ん。
影たちは、すでに向こう側へ消えている。
門がゆっくり閉じ始めていた。
「雪松さんと、おコウさん……起こしますか?」
福童の問いに、戌助は首を振る。
「いや。間に合わなくなる」
腰の刀を確かめる。
「行こう」
二人は同時に船を飛び降りた。
冷えた石の船着き場を蹴り、一気に門へ駆ける。
狭まりゆく門の隙間へ、戌助が身を滑り込ませた。
福童も続く。
次の瞬間。
轟音とともに門が閉じた。
石門の閉じる響きを背に、
二人は槐の淡い灯の中へ踏み込んだ。




