二幕 化けの皮
再び、拍子木が鳴った。
今度は間を置かず、獣皮の闘士が地を這うような低い姿勢で突っ込んでくる。
弱った獲物へ襲いかかる猛禽のように、音もなく滑り――次の瞬間には、跳ねた。
「っ!」
端間がとっさに身をひるがえすが、びっ、と刃が袖を裂いた。
「ひゃぁっ!」
端間は転がるように距離を取る。
だが、追撃は止まらない。
間髪入れず振り下ろされた刃が、今度は腕を浅く掠めた。
「痛――っ!!」
端間は飛び退き、半ば這うように柱の陰へ回り込む。
さらに踏み込んでくる闘士へ、
「待っ、待っ、近い近い近い!」
叫びながら、また跳ぶ。
紙一重。
裾が裂け、髪が散った。
端間が転がるように逃げた先へ、コウが割り込み、蹴り上げる。
闘士の肩がぶれた。
そこへムツの槍が伸び、追撃を逸らす。
傍目には、ただ情けなく逃げ回っているようにしか見えない。
だが、コウは目を見張った。
「すごい……あの子、読んでる」
端間は立ち上がりながら、獣皮の闘士を睨んでいる。
(春居が言ってたの、そういうことか……)
人の剣ではない。
理ではなく、本能。
狩る者の間合いだった。
――山で、獣みたいに暮らしてた。
端間の言葉を、ムツは思い出していた。
その時だった。
端間が、ふいに身を低く落とした。
そのまま片手を地につき、木刀を低く引く。
四つ足。
喉の奥で、低い息が鳴った。
空気が変わる。
戌助が、息をのんだ。
獣皮の動きが、ぴたりと止まる。
闘士もまた、地を這うように身を沈めた。
二匹の獣が、互いの隙を測るように睨み合う。
先に飛び込んだのは、闘士だった。
一直線。
速い。
だが端間は動かない。
ぎりぎりまで。
なおも、動かない。
喉が鳴る。
胸の震えを、必死で押さえ込む。
(すぐ動くな……だよな)
闘士の刃が届く、その刹那。
端間の身体が、ふっと横へ消えた。
寸前で身をかわし、そのまま木刀を脇腹へ叩き込む。
獣皮の闘士の身体が、わずかによろめいた。
ほんの一瞬。
だが、その重心が浮く。
「今!」
ムツの槍が足を払った。
踏み直そうとした脚が崩れる。
そこへ、コウが飛び込んだ。
全身を乗せた一撃が、闘士の胸を突く。
鈍い衝撃音。
身体が、大きく揺れた。
観衆がどっと立ち上がり、椅子ががたがたと鳴った。
「倒れるぞ!」
獣皮の闘士は、ついに膝から崩れ落ちる。
会場中がどよめいた。
「うそだろ……!」
「あのチビがやりやがった!」
歓声とも怒号ともつかぬ声が爆ぜる。
ムツが、ほっとしたように笑った。
「小左ヱ門、やったな」
端間は肩で息をしながら笑い、鼻の下をこする。
ざわめきの渦の中。
戌助だけが、静かに歩き出していた。
血のにじむ肩を押さえながら、倒れ伏す闘士の前へ立つ。
ムツもコウも、声をかけない。
ただ、黙って見守っている。
戌助はしゃがみ込み、獣皮の頭巾へ手をかけた。
ゆっくりと、剥ぐ。
その下にあった顔を見た瞬間、戌助の目が見開かれる。
「……お前……」
剥がれ落ちた獣皮の下にあったのは、懐かしい顔だった。
だが、その名は違う。
「……御井」




