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季節は神の悪戯か  作者: 迫る騎士鹿丸
第二章:喧騒の街中にて

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9/10

第一話

大変遅くなりまして申し訳ないです。

今後も不定期だと思いますがよろしくお願いします。

「ところで、お前はまずどこへいきたいんじゃ?」


 エトロンは自身にまたがったコタンに問う。まだ一歩も家の前から動いてはいない。


「そうだな。俺は色々な世界が見てみたいんだが、どこかおすすめはあるか?」


「おすすめか。難しいことを言うのう。」


 そう答えたきり、考え込んでしまう。

 それを見てコタンは笑いながら、


「じゃあ、さっきの話に出たところに行ってみよう。あの、エトロンが迷ったっていう森に。」


「よく覚えているのう。まあ、いいじゃろう。少し遠いが、その道のりも旅だし。」


 恥ずかしい過去に少し眉を寄せながらも、エトロンは方針が固まったため南の方へいざ走り出そうとしたが


「ちょっと待ってくれ。」


 というコタンの硬い声で止まる。


「何じゃ?」


 コタンは先ほどまでの楽しそうな顔とはうって変わって、何か苦いものを飲み込むような、そんな表情で


「この国を離れる前に南方最大の都市、ライゼンに向かってくれないか?」


 と言った。



 エトロンが走り出してしばらく。

 森の中を音を超えるほどのスピードで疾走しながらエトロンは、ずっと黙っているコタンに声をかける。


「どうして、いきなりライゼンに行きたいと言ったんじゃ?」


 本当は、どうしてそのような苦しい顔をしているかを尋ねたかったのだが、腫れ物に触るような話だと思ったため、避けたのだ。

 ただ、コタンはエトロンの内心を読んだのだろう。


「すまない、いきなり俺が何も言わなくなったから心配かけたな。」


「いや、それはいいんじゃが。」


 コタンはゆっくりと首を横に振りながら答える。


「これは俺の問題なんだがな、ライゼンには因縁があってな。」


「因縁。」


 エトロンが言葉を繰り返すと、コタンは頷く。


「エトロンは気づいていると思うが、俺の人種はこの国においては少数派だ。」


「そうじゃのう。」


 コタンたちが現在いる国、キャエデス王国においてもっとも多い民族の肌は真っ白であるのに対し、コタンの肌の色はわずかに褐色なのである。

 目を凝らしてみなければわからない程度の違いだが、気にする人は気にする。


「だから、昔から差別があったんだ。」


 コタンが以前住んでいた集落では、現在のコタンの暮らしと同じように狩猟を生業として生きてきた。基本的には自給自足で、足りないものは一番近くの街であるライゼンへ交易で手に入れてきた。

 ただ、その交易は必ずしも公平なものとは言い難く、安く売らされ、高く買わされることも多かった。


「それでも、互いに必要な存在として生きていたはずだった。」


 ここまで話したところでコタンの表情が大きく歪んだ。

 それを見てエトロンはゆっくりと減速する。


 ぽつり。ぽつり。


 ふさふさのエトロンの白い毛の上に雫が落ちる。


「それがあの日、突然変わったんだ。」


 コタンはその苦い記憶を思い出しながら語る。


「いつもは三日程度で交易を終わらせて帰ってくる父さんやおじさんたちが七日経っても帰ってこなかった。おかしいなと思いながらも俺たちはきっと帰ってくると信じて待っていた。」


 エトロンの足は完全に止まり、静かな森の中でコタンの話に耳を傾けていた。


「でも、帰ってこなかった。代わりにやってきたのは武装したライゼンの市民と、兵士たちだった。そこで何が父さんらの身に何があったかを理解した母さんは俺だけでも逃がそうと、裏口から山に逃げるように指示をした。俺は指示に従って、一度も振り返ることなく無我夢中で逃げた。」


 ここまで話したところで、コタンは限界を迎えた。

 歯を食いしばり声こそあげないものの、目尻から溢れる涙は止まることを知らない。

 手はぎゅっとエトロンの毛を掴んだままだ。


「そうか。」


 エトロンはそういうのみで、それ以上何も言わない。

 正確には、何を言えばわからず立ち尽くすしか無かったのだ。



「お主は強いな。」


 コタンの涙が止まろうとした頃に、エトロンはポツリと言葉を漏らす。


「なんだって?」


 うまく聞き取れなかったコタンは聞き返す。


「お主は強いと言っただけじゃ。」


「俺が?」


「そうじゃ。わらわであれば一人で逃げることもできんし、一人で生きていくこともできなかったじゃろう。その上、今ライゼンに行こうとしておるのは、その過去を乗り越えるためじゃろう?」


「…乗り越えるというか何というか。あれからしばらく経って、領主も変わったと以前会った旅人に聞いた。それで異民族である俺たちへの対応が変わったのかを確かめようと思っただけだ。」


「それを乗り越えるというんじゃ。」


「そうか。…もう大丈夫だ。エトロンのおかげで気持ちの整理はついた。」


「それじゃあ、行こうかのう。」


 改めて、二人は旅を始めるのであった。



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