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季節は神の悪戯か  作者: 迫る騎士鹿丸
第一章:静かな冬の森にて

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第七話

「ようやく見つけた。

 全く全く、約束していた場所にいないからあちこち飛び回っていたんだからね。

 そしたらここからすごい衝撃を感じたから慌てて飛んできたってわけ。」


その言葉でコタンは目の前に立つ存在が、何者かを理解した。

一生に一度目に入れることができるかできないかという、神という存在を一日で二人も目にしたという現実に戸惑うコタン。

先ほどまでの驚いていた様子から打って変わって、青い空をぼんやりと見つめている男を気にせず、キラと背負われたままのエトロンは話を続ける。


「約束していた場所が違う?」


「そうだよ。今年は南の龍の住む場所で会おうって約束したじゃん。」


「それは去年の話じゃないのかや?」


「あれぇぇ?」


「今年は中央大陸の北の地で会おうと言ったじゃろうが。」


「…そうだったかも?」


はぁ、とため息をつきながらエトロンはコタンの背中から降りてキラに近づく。

足を止めて、武器ではない方の神器を出し無言で差し出し、


「とりあえず、今日からはお前が役目を果たせ。

 わらわは早く休みたいのじゃよ。」


「ごめんなさい。」


キラはその紫の目を伏せて謝る。

謝りながら神器を受け取ると、


「理よ、風の力をここに顕現させよ。

 癒風よ吹け、天つ息吹となりて世界をつつめ。『風癒』」


唱えられた神術によりエトロンの体が淡い緑の光で包まれる。


光が解けそこにあったのは、傷が全てなくなった白い肌、艶のある銀髪に白い狐の耳を生やした美しい女の姿だった。

元々整った容姿であったが、治癒力の低下とともに容貌も痛んでいき、輝きは褪せていた。

しかし、今、明るい陽の元で見るとやはり人間離れした美しさである。


コタンは思わず見惚れかけるも、すぐに自分を取り戻し、


「これで今日から春になるってことか?」


「そういうことじゃのう。」


ほっと息を吐く。

これで食べ物に困ることがないと思うと一安心である。


そんな二人の会話を不思議そうに見つめるキラ。


「そういえばなんだけど、そこの人間は私たちのことが見えるの?」


その言葉を聞いて、キラの存在を思い出すエトロンら。


エトロンはもう慣れているが、神々を見ることのできる人間は基本的にいないのだ。

説明されていないキラが戸惑うのは無理もない。


「ああ。こやつはコタンという。

 見ての通り、わらわのことを見ることができるのじゃ。」


紹介はされたものの、どのように反応すれば良いか分からず軽く頭だけ下げて挨拶をする。


「そっか。私たちのことが見える人間を見るのはどれくらいぶりかな。」


「やっぱり珍しいのか?」


「そうだね。

 私が見るのは一千年ぶりくらいかな。」


「一千年。」


やはり人間であるコタンには想像もつかない時間である。


「それにしても、エトロンがそんなに体を許すなんてね。」


「おい、言い方が悪いぞ。」


「ごめんごめん。

 でもほんとに、ここまで体を任せてるのは初めて見るよ。」


「そんなことは…ない。」


目が泳ぎながらもキラの言葉を否定するエトロン。

しかしキラは変わらず、疑いつつも面白がっているような目線を向けている。


「こほん。」


空気が自分に都合が悪くなったため、咳払いをして、空気を変えるように明るい声で話を変える。


「そんなことより、お前はそろそろ仕事を始めんくて良いのか?」


「あっ。確かに確かに。」


思い出したように頷く。

頷くたびに揺れる薄緑色の髪を右手で払いながら、



「じゃあ、またね、エトロン。」


と言って、最初にこの場所に現れた姿ー緑の大きな鳥ーに変身し空に飛び立つ。



「気をつけてな。来年はまたこの場所で。」


エトロンの言葉に返事をするように、高い鳴き声を雪山に響かせてキラは去った。



「さて、では俺も戻るとするかな。」


「わらわが家まで送って行こう。それなりに離れてしまったからのう。」


「じゃあ、お言葉に甘えて。」


白狐に姿を変えたエトロンは乗りやすいよう足を畳む。

コタンが跨ると立ち上がり、歩き出して、風のように森を駆け出した。



その道中、コタンはエトロンに質問をする。


「なあ、あの神術ってどうやって発動させているんだ?いくつか質問があるが、いいか?」


「いいぞ。わらわでわかることならばなんでも答えよう。」


エトロンは直接コタンの脳内に返事をする。


「じゃあ、まず、あの唱えていた言葉はなんだ?」


「あれは祝詞と我らは呼んでおる。

 祝詞を唱えることで、我らは体内の神力を神術として利用ができるのじゃ。」


「祝詞を唱えたら誰でも神術が使えるのか?」


一番気になっていたのはこれだ。

人並み以上の神力を持つ身であれば、神術を使うだけの力はあるだろう。

であれば、エトロンから祝詞を教わればコタンでも神術を使える可能性はー


「無理じゃな。というか、正確に言えば適性があればできる、というべきか。」


「適正というと?」


「わらわは水属性の適性があるから水属性の神術が使える。

 じゃが、お主には適性が無いな。」


「俺が何属性かは?」


「そこまでは分からん。

 が、同じ属性のものであれば互いの神力が引き合うような感覚になるのじゃ。」


「なるほど。」


残念ながらコタンが神術を使える日は遠そうだ。

肩を落とすコタンを横目にエトロンは説明を続ける。


「神術は基本的に三つの文と一つの単語からなっておる。

 例えば、先ほどわらわが最初に唱えた祝詞は、

 『理よ、水の力をここに顕現させよ。

 力は静寂を裂き、軌跡を描く。

 世界を穿て。『穿水』』じゃった。

 この文を一言一句欠かさず唱えると、この神術が持つ最大限の力を使用することができる。」


「その言い方だと、祝詞を全て唱えなくても神術が使えるみたいだな。」


「その通り。

 神術を発動させるのに必要なのは一番最後の単語じゃ。

 だから今ので言うと、『穿水』とさえだけ唱えれば神術は発動できる。」


「そうなんだな。」




その後も神術について教わることしばらく。


「もう直ぐかな。」


深い森の中のため、周りの景色は見えないが時間的にはそろそろだろう。

コタンの呟きにエトロンが反応する。


「そうじゃの、もうすぐこの森も抜ける。」


言われてコタンが前方を見ると確かに鬱蒼とした森の中、一つの光の点が見えた。


「あそこか。」


その点はみるみる大きくなっていき、そして通り抜けた先にはーーー


「はぁっ?」


そこに広がる光景を見てコタンは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

なぜかというとー


「俺の家が…潰れてる。」


大きな岩が本来、家が立っていた場所に刺さっていた。

コタンの家の姿は微塵も残っていない。


「おそらく先ほどの戦闘でえぐれた地盤がここまで飛んできたのじゃろう。」


どこか申し訳なさそうな声色で原因を推察するエトロン。その足は止まっている。

その上に乗っているコタンはただ茫然と目の前の光景を目に入れるだけだった。


「う、うむ。こうなった原因はわらわにあるんじゃが。

 流石に戻すことはできんしのう。」


家があったすぐそばまで近づき、そこでコタンをおろして人型に戻り言う。

まだコタンは現実を受け止めきれていない様子だ。


「俺の…俺が建てた家が…貯めておいた食料が…」


目の焦点は揺れ、明らかに正気を失う男にかける言葉が見つからず、エトロンはそっと黙って後ろに立つ。


「これから一体…どう過ごしたら…」


そう呟くと同時に、コタンの体から力が抜け、


ドサッ


という音を立て地面に横たわった。


「おい、コタン。しっかりせい。」


エトロンが肩をゆらすが意識は戻らない。

ただ、息はあるので重症ではないだろうと判断し、木陰でゆっくり休ませることにした。


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