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季節は神の悪戯か  作者: 迫る騎士鹿丸
第一章:静かな冬の森にて

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第六話

エトロンが戦闘に戻ると、すでに魔の頭は回復していた。

先ほどより再生が早い。


「まだ成長途中か。厄介じゃのう。」


魔は再び黒紫色の球体を出現させる。

先ほどよりも数はずっと多い。


さらに、


「おっと、追尾してくるか。」


体を加速させ、大きな弧を描いて飛び、魔の目の前に迫る。

魔の操る光線もエトロンを追って、同様に弧を描いている。

それを確認したエトロンは魔の目の前で急上昇する。

敵の思わぬ行動で、まだ追尾弾の制御に慣れていない魔は自分に自らが放った光線を当ててしまう。


ドカーン


「さて、核はどこかのう。」


大きく損傷した魔の体を上空から眺めるものの、見つからない。

隅々まで見渡すものの見つけることができないが、再生を始めている様子を見る限り止めはさせていないようである。


「仕方ない。神術を使うとするかのう。」


大きくため息を吐いた後、エトロンは目を瞑り、神器に力を込めながら唱える。


「理よ。水の力をここに顕現させよ。」


青白い光がエトロンの唱える言葉を聞いてか、その手に集っていく。

光は、遠くから見ているコタンにもはっきり見えるほど眩く、思わず呼吸を忘れてしまうほど美しく輝く。


「力は静寂を裂き、軌跡を描く。」


一つに集まっていた光はいくつもの点に分かれ、エトロンの周りを舞う。

ここで、言葉を区切ったエトロンは、目を開け地面に横たわる魔を見る。

魔はここでやられるまいと、必死に壊された体の再生をしている。そんな魔に向かって粛々と神術を構築する。


「世界を穿て、『穿水』。」


光の点は水の粒に姿を変えたかと思うと、すぐに線となり魔を襲う。


それを離れた場所から見ていたコタンは思った。これはまさしく神術と呼ぶに相応しい技であると。

数えきれないほどのー優に千は超えるー水の線が魔を貫く。

その線の量、速さ、全てが人智を凌駕する技であるということの理解は容易かった。


「今度こそやったか?」


これほどの攻撃を受けて生きている生命体がいるはずがないと、コタンは思わず声を上げる。

しかし、エトロンの目は厳しいまま、穴だらけの魔の体表を見るめる。


「まだ生きているのじゃろう?」


エトロンの予測通り、魔はまた体の再生を始める。

しかも、その速度は最初よりもはるかに早い。


最初の速度を牛歩とすると、今の速度は馬の走りほどというべきか。

見ている間に、もう体に空いた穴を塞いでしまった。


頭が再生する前に、再び神器で攻撃を加えるも、新たに再生されてできた魔の皮膚はその攻撃を通さない。

カンッ、という甲高い音を鳴らしてエトロンの攻撃を全て弾いている。


「いくらなんでも成長が早すぎるじゃろう。」


エトロンの白い頬を汗が伝う。

自身が持つ、ほぼ最高火力の攻撃を加えてこの状況だ。

焦る感情が湧いてくるのをなんとか堪えて、打開策を必死に考える。


案一:このまま神器の力だけで倒す。

これは不採用だ。ここまで強い再生力を持つ魔を押し切れる気がしない。

おそらくだが、攻略法は魔の体を完全に塵にするくらい破壊すること。

そもそも攻撃が弾かれては論外である。


案二:神術を使う。

エトロンの使える神術のなかで、最大の破壊力と弾幕を誇る術であれば倒せる可能性がある。

あくまで可能性であり、百パーセントではない。とはいえ、現時点で一番この手段が成功率が高そうである。

懸念としては、この神術を放ってしまうとこれ以上戦えなくなってしまうこと。

この目の前の魔もそうだが、他にも魔が出現した時、対応がほぼ不可能となってしまう。


リスクを考えつつも、結局、案ニを使うほかないという結論に至りエトロンは、完全に魔が再生を終える前に詠唱を始める。


「理よ、水の神、エトロンの名のもとにおいて水の力をここに顕現させよ。」


再び青白い光がエトロンの手元に集まる。


光は先ほどまでよりも遥に強く輝く。

その光は遠く離れた場所にいるコタンが直視できないほどだ。


「力よ、一点の蒼、無限の圧となれ。」


光たちは一つに集まり、より青く輝く。

まるでその青は空を圧縮させたような、もしくは川の水を一点に集めたようである。


「蒼は奔雷のごとく全てを壊す。『蒼界崩圧』」


その言葉と同時に光は魔の表面に急接近し、動きを止めたかと思うと、


ドゴォォォォォォン


球体から一本の大きな柱に姿を変えた。

地面を抉る音が聞こえ、抉られた大地がコタンのいるあたりまで飛んでくるほどその威力は高く、また、どこまで伸びているのかと上を見ると、雲すら突き抜けて空の彼方まで光の筋は続いていた。


その攻撃がどれほどの時間続いただろうか。


光の柱が消えた場所には大きなクレーターがあるのみで、そこにあったはずの魔の巨体は無くなっていた。

残っていたのは深くまで抉れた地面のみ。きっと、池になること間違いなしである。


魔の塵すら残さない神術をみて、コタンは何も言えなかった。

神の圧倒的な力の前に言葉を失うのみ。


目の前の光景をぼうっと眺めていると、宙高くに浮かんでいたエトロンがゆっくりと地面に降下し、接地と同時に倒れる様子が目に入った。

神力のみならず、身体中のエネルギーを使い果たしてしまったのだろう。

いくら神の肉体が丈夫だとは言え、心配になったコタンはエトロンの元へ走って確認に行った。


「大丈夫か?」


「ああ。大丈夫じゃ。少々派手にやりすぎてしもうたかのう。」


コタンに声をかけられ、すぐに立ち上がるエトロンだが、どうみても痩せ我慢である。

顔色は土色で、手足には痙攣が見られる。

体の作りは人間と似ているのだなと、妙なところに感心しつつ、


「おぶって行くから、俺の家で休め。」


真摯な声色で言うのでエトロンも断れず、屈んだコタンの背中に乗り、目を瞑った時だった。


突然、空に緑色の鳥が現れた。とは言え、見るからにただの鳥ではない。

大きさは太陽が完全に隠れるほど。

広い翼をゆっくり羽ばたかせながら、長い長い尾鰭が空中で舞っている様子は神々しい。


ぼーっとその鳥を見ていると、強烈な風が地面に向かって吹きつけ、思わず目を閉じてしまう。


次に目を開けた時、そこにいたのは薄緑の髪色をした、小柄な女だった。


「はぁっ?」


にわかに信じがたい光景を目の前に、つい素っ頓狂な声をあげてしまうコタン。


その声でエトロンが目を開け、一言。


「キラ。」



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