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季節は神の悪戯か  作者: 迫る騎士鹿丸
第一章:静かな冬の森にて

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第五話

数分後。

森の中を駆ける一匹の大きな白い狐と、その上に乗るけむくじゃらの一人の男がいた。

男の肩には大きな弓がかけられている。

言うまでもなく、エトロンとコタンである。


コタンは、自分がどこまで戦力になれるかはわからないが、ボロボロなエトロンを一人行かせたくはなかった。

先ほどの気配は、女神ですら気圧されるものである。

それほどまでの相手だ。いないよりはいたほうがマシというものだろう。


「これほどのオーラを放つ奴はどれくらい強いんだ?」


大狐に姿を変えたエトロンに尋ねる。

すると、エトロンは直接コタンの脳内に語りかける形で答えた。


「そうじゃな。わしがこれほどの魔に出会ったのは百年ほど前かのう。やつの強さは尋常ではなかった。

 熊の形をしておったが、何かしらの術を使って大地を操り、幾つもの山を作ってわらわの術を防ぎ、通常の熊を遥に凌駕する身体能力で襲いかかってきよった。

 今振り返っても、奴に勝てたのは運以外の何でもないように思われるほどじゃ。」


「それほど強い魔がいると言うことだな。」


「おそらくじゃがな。

 何、怖気ついたのならば帰ってもいいぞ。」


「まさか。」


コタンは即答する。


コタンが手伝うことを選んだのには理由がある。

まず、世界を守る神の手伝いができるのだ。一生に二度もない、栄えある仕事だ。

仮にこれで死んでも文句はない。


また、エトロンを自分の妹に重ねたと言うのも理由だ。

自分の見ていないところでいつの間にか命を落とし、守れなかった妹。

よっぽど、女神ほどの絶大な力の持ち主が負けることはないと信じているものの、今のエトロンは手負の身である。

過去に救えなかった妹の代わりというわけではないが、もう二度と自分の与り知らぬところで命を散らせたくない。


そんな思いで来たというのに、今更決断を変えるという選択肢は、コタンにはなかった。


「そうか。」


コタンの気持ちを汲み取ったのか、それ以上、白狐は何も言わなかった。




静かな冬の森を駆けることしばらく、一行は黒く、巨大な『それ』を見つけた。


「なんだあれは。」


コタンが思わず、震える声を漏らしてしまったのも仕方がない。

『それ』は蛇の形をしているものの、これまでにコタンが見たことがあるものとは似てもつかない。


まず、黒い体からは紫電が放たれており、一目見るだけで危険なオーラを感じる。

目は不気味な赤血色に輝いている。

縦に開いている瞳孔は、己の天敵であるエトロンを捉えて細まり、明らかに威嚇してきていた。


次に特筆すべきなのはその大きさだろう。

とぐろを巻いている状態で、高さは雲に届きそうなほど、横幅は山ほどある。

表面は固そうな皮膚で覆われており、コタンがどれほど力を込めて矢を放っても貫くことはおろか、突き立てることすら厳しそうだ。


エトロンは蛇型の魔から少し離れた場所で足を止め、コタンを下ろし、人型に戻る。

その長い銀髪を吹く風にたなびかせながら、手元に光の粒を発現させる。

粒子が集まり顕現したのは、先ほどコタンに見せた神器である大矛だ。


「それじゃあ、勝負と行くかのう。」


「エトロン。」


これから、危険でこの上なく激しい戦闘が始まるかもしれないというのに、気楽そうな調子でエトロンは言う。

その声があまりにも軽く、思わずコタンは名前を呼んでしまう。


呼ばれた方はというと、何も言わず、少し口端を上げて男の顔を見つめている。

コタンはというと、名前を呼んだはいいものの掛ける言葉が見つからずに目を泳がせている。


それを見たエトロンは、


「あははは。お前という奴は面白いのう。」


「…面白いか?」


「ああ。何を言いたいのか顔に書いてあるぞ?」


「顔に?」


自分の中で言葉がまとまっていないのに、顔に現れるものだろうかと不思議に思うコタン。


「心配じゃろうが、大丈夫じゃ。

 あの魔はわしが倒す。お前はそこで大人しく待っておれ。」


「そうか…」


コタンの中のモヤモヤした感情が、エトロンの言葉で心配という名前に変換される。


「俺はエトロンのことが心配だったんだな。」


「そうやって言葉に出されると、なんだか照れ臭いのう。」


そう言いながら魔の方へ体を向ける。


「それじゃあ、行ってくるぞ。」


「ああ、頑張れ。俺もここから援護できるか探ってみるから。」


コタンは自分より小さいが、重いものを背負っているその背中を鼓舞するよう、強く言った。


そんな思いを知ってか知らずか、その背中が少し嬉しそうに見えた。



エトロンの首筋を静かに伝う汗。

コタンへの態度では全く見せなかったが、実は内心焦っていたりする。


これまで、この世界を守るためにいくつもの魔と戦ってきたが、この魔ほどの大きさは初めてである。

正直、今の体の状態で勝てるかどうかは五分五分と言ったところか。


とはいえ、そんな弱気なところを人間に見せるわけにはいかない。

精一杯強ぶって、どうにかあの魔を倒して、笑顔であの男の元へ戻ってやるのだ。

それが、神としての意地だ。


心を決めて、神器を構える。

エトロンの存在に気づいているはずなのに、微塵も動かずに、ただ睨んでくる様子は不気味だが、野放しにするわけにはいかない。


「行くぞ。」


一瞬でエトロンの姿は魔の目の前へ移動する。

神器に神力を通すと、矛の刃は薄青色に輝く。

その矛を振りかぶり、一撃で首を取るくらいの気持ちで切りつける。


シャン


エトロンが一振りすると同時に、眩しい青電が一閃し、思わずコタンは目を閉じてしまう。


ドンッ


目を開けると、そこにはエトロンによって落とされた魔の頭があった。

その目にはすでに生気が宿っておらず、意識がないことが分かる


それを見て、思わず、


「やったか?」


と声を上げてしまう。

しかし、隣に現れたエトロンの顔は険しいままだ。


コタンも、その目の向いている魔の胴体を見ると、頭が再生する様子が見えた。


「やはりな。感触が軽すぎると思ったのじゃ。」


「じゃあ、どうやって倒すんだ?」


「ああいうのは体内に核があるから、それを壊せばいいんじゃが…」


核は体外から見えそうにないのじゃ、そう弱々しく呟いた。


再生した魔は、ようやくエトロンを自分を害する存在だと認めたらしい。

先ほどまでとは打って変わって、敵意剥き出しの目線を向けてきている。


そして、体の周りに黒紫色の球体をいくつも生み出し、


ブオン


黒い光線を放つ。

それを見たコタンはどうすればいいのかわからず固まってしまう。

そんなコタンを抱えてエトロンは光よりも早い速度で飛翔し、回避する。


「すまない。手伝うとか言ったくせにこれじゃあ足手纏いだな。」


「いや、構わん。それにこれは、一撃で倒すことのできないわらわの力不足じゃ。」


そう言いながら、コタンを抱えたまま再び魔の頭を落とす。

そして再生する隙に魔から少し離れた山の頂にコタンを下ろす。


「それじゃあ、倒してくるからここで待っておれよ。」


「…ああ。」


自分の無力さに唇をかみながら、しかし、現状を打破する力を持ち合わせていないため、素直に戦線から離脱することにした。


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