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季節は神の悪戯か  作者: 迫る騎士鹿丸
第一章:静かな冬の森にて

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第四話

自分が思っていたよりも最後に出会った自分が見える人間のことをよく覚えていたことに、エトロンは驚く。

案外、自分と話せる人間という存在に待ち焦がれていたが故に、この思い出を大切に保管していたのかもしれない。


「南の方はここより、雪が降らないほど暖かいのか。」


「そうじゃ。ただ、代わりに夏がとんでもなく暑いのが残念じゃが。」


コタンの言葉で現実に引き戻される。



「それじゃあ、エトロン、今度は俺からら質問をさせてもらう。

 まず、神を見ることができる人間というのは、何か特徴があるのか?」


「神が見える人間という存在が希少じゃから一概には言えんが、わしの推測じゃと、生まれながらにして持っている神力が多いものを、わらわたちは見ることができているのじゃと思う。」


「人間も神力を持っているのか?」


「ああ。全員持っている。ただ、量には個人差があっての。

 わらわも、はっきりとした数値で神力が見えているわけではないんじゃが、例えば普通の人間の神力の数値を一とすると、お前は百以上じゃな。

 ちなみにわらわは一億以上といったところかのう。」


「そうなのか。」


丁度、神力の話がひと段落したところで、火にかけられているボウルの中の水がブクブクと煮え出した。

その様子を見ながらコタンは話を続ける。


「それじゃあ、魔というのはどういう存在なんだ?

 どのような見た目で、どのようにして倒すのか、とか。」


その質問に、エトロンは昨日倒した魔を思い浮かべながら答える。


「魔というのは大体、黒くて動物の姿をしているものが多い。

 おそらくじゃが、これは、目覚めたところの近くを通りかかった動物の姿を奪っているからじゃな。

 たまによくわからんドロドロとした見た目のやつもおるがの。たぶんそれが本体だと思われる。」


話しながらエトロンは、空の太陽のあるであろうあたりを眺める。

天気は変わらず曇り。先ほどまでより心なしか灰色は濃くなっているように見える。

そんな空を見て、眉を寄せながら、魔についての説明の続きをする。



「倒し方は主に二つ。一つ目は、神器で殴り倒す。」


そう言いながらエトロンは手元に光の粒を出現させる。

粒の数が増えていき、そしてー


「これが神器じゃ。」


光の粒が合わさってできたのは大きな矛だった。壮麗な、神器と呼ぶに相応しい見た目だ。

真っ白な柄に空色と金のラインが入り、柄の下部には金色の糸で紡がれた飾りがついている。

刃には波打つ水面のような、青藍色の美しい波紋が浮かんでいる。


「ということは、今エトロンは二つ神器を持っているのか?」


「そうじゃな。この魔を討伐するための神器と、探知するための神器の二つじゃな。」


ほれ、と言いながらエトロンは首飾りを手に取りコタンに見せる。

一見、細い黒の糸に深緑の勾玉を通しただけの首飾りに見えるが、そこから溢れ出る何かが、確かにそれが神器であることを示していた。


「なるほど、これが神力か。」


「お、分かるかの?」


「ああ。なんというか、俺の中の何かと共鳴するような感覚がある。」


「ふむ、それほどまでの器か。」


「うん?」


「いや、なんでもない。それより、もうそろそろいい頃合いじゃないのかや?」


言われてみると、確かに雑穀の色も変わり、十分煮えたようである。

コタンは火からボウルを外し、ポケットから小さな袋を取り出して、ひとつまみ分の何かをかけた。


「なんじゃ、それは?」


「これは、岩塩と乾燥させたスパイスを混ぜ合わせたものだ。味付けによく使う。」


まだ熱いボウルを木でできたスプーンで軽くかき混ぜ、手袋をはめた手で家の中へと運ぶ。

木でできた二つの深めのさらに分けて、一方をエトロンに渡す。


「質素なもので悪いな。」


申し訳なさが滲むコタンの顔だが、受け取るエトロンの顔はというと、真夏の太陽ほど輝いて見える。

口の端からは唾液が漏れそうになっており、料理への期待度が伺える。


「いただくぞい。」


目をキラキラさせたまま、皿を顔に近づき、大きく鼻で息を吸う。


「ううん。いい匂いじゃのう。」


「そうか?」


コタンにとっては普通のご飯だ。

何がそれほどまでに嬉しいのか全くわからないが、悪い気分ではない。


早速、エトロンはスプーンで一匙掬い、口に入れる。


「うむ。うまいぞ、コタンよ。

 何より、温かい飯というのが素晴らしい。」


「それほどか?」


あまりにもうまいと連呼するので、コタンも自分の料理スキルが上がったのかと、一口食べて確認したが、いつもと別段変わらない。


「ああ。というか、そもそも飯というものを自分では作らんから久しぶりなのじゃ。

 やはり飯というのは素晴らしいのう。食べるだけで元気が湧いてくる。」


笑顔を見せるエトロンを見て少し嬉しくなるコタン。

それを見ながら食べたご飯はいつもより甘く、深い味わいがしたような気がした。




「そういえば、魔の倒し方の二つ目はどういうものなんだ?」


ご飯を食べ終わってしばらく。

家の中でのんびりとしているエトロンに尋ねる。

ちなみに、そんなにものんびりとしていて、魔は大丈夫なのか尋ねたくなったが、神器が何も言わないというのであれば大丈夫なのだろう。

そもそも、広い広い世界のあちらこちらで魔は発生するのだ。ここらを探し回ってもそう効果はあるまい。

それくらいなら、こうやって休んで英気を蓄える方がよっぽど有意義といえよう。


「ああ、言っていなかったな。

 二つ目の倒し方というのは、神術を使う方法じゃ。」


「神術?」


「まあ、そういう技なんじゃ。

 非常に強力なんだが、発動までに時間がかかるのが難点じゃな。

 じゃから、よっぽど強い魔にしか使わん。」


「そうなんだな。」


そんな会話をしていると、突然、エトロンの首飾りについている勾玉が光を灯す。


「おっと、魔が現れたようじゃの。」


立ち上がって扉へ向かう。

コタンも見送りをしようと立ち上がる。


その瞬間である。

コタンはぞくりと、何かが背中を走ったような感覚に襲われた。

エトロンも、先ほどの気の抜けたような表情から一転して真顔になる。


「すぐ近くにおるのう。では、世話になったぞ。」


「待ってくれ。」


一瞬で表情を作り直し、呑気そうな調子で扉を開けようする女神にコタンは慌てて声を掛ける。


「大丈夫なのか?

 俺にも感じ取れるほどだ。かなりの強敵じゃないか?」


コタンの言葉に少し眉を寄せるエトロン。

コタン言った通り、これほど存在感のある魔はかなり久しぶりである。


「うむ。じゃが、行かなくてはならぬ。」


だからと言って神としての職務は放棄できないのだ。

するとコタンは少し考えるそぶりを見せ、そしてはっきりと言う。


「じゃあ、俺も連れて行ってくれないか?」


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