四十七話 ほどこし、ほどこす
カレンさんといっしょに、ウェディングドレスに着替えている。
今日はあたしたちの結婚式!!
いつもなら、あたしが使える唯一の魔法で一瞬にして着替えたところだけれど、そうはならない。
なぜなら、ウェディングドレスなんて、一生にいちどだけのものだもの。
子供の頃からあこがれていたゾーイのためにも、いい奥さんになりたいし、一瞬で着替えちゃうのはもったいない。
やっぱり、風情って大事だよね。
「うっ」
あたしより先に着替えおわっていたカレンさんが、急に頭を抱えてうめきはじめた。
まだ呪いが残っていたの!?
ところが。
「う~。ゆるさんぞ、ゆるさん。国民だけが幸せでいることだけはゆるさん」
この声。前魔王!?
ちょっとぉ。今日じゃなくてもよくない!?
と、いうよりは。カレンさんの体の中に、まだ前魔王が残っていたことが驚きだよ。
すると、今までなりをひそめていたの!?
なんて執念深い。
前魔王のうめき声が聞こえたのか、男性陣たちが集まる。
やだ、お式の前にドレス姿を見られてしまうなんて♡。
とか言う暇もなく。
「前魔王のやつ。まだカレンにしがみついていたのか!?」
ディール様だって、今日のこの日をどんなに待ち望んでいたことか。
ウェディングドレス姿で赤い目を光らせる前魔王を、複雑な気持ちで見つめる。
もしかしたら彼は、自分だけが不幸せだと感じていたのではなかろうか?
だから、水の中に疫病の呪いをほどこし、ばあやさんや、スラたんたちをスライムの姿に変えてしまったのではないか?
だとしたら、本当はすごくさみしくて、孤独だったのかな?
やることはえげつないし、少なからずあたしもダメージを受けたし、ゾーイのお爺さんも死なせてしまったのだけど、そう考えると、わずかながらかわいそうですらあるかもしれない。
そっかぁ。あたしが簡単に幸せになれる方法がひとつあるんだ。
お菓子を作って、食べる。誰かと……ゾーイといっしょに食べること。
それがなによりうれしいんだ。
だから、ね。
これはあくまで奥の手として残しておいたのだけど、あなたの魂がむくわれるのなら、食べてもいいんだよ?
今は、頭のベールを止めるためにカチューシャとしてはめこまれたものを静かに取りあげる。
それを、無抵抗なカレンさん、ううん、前魔王の口の中に放り込んだ。
かわいらしいいちごの飴ちゃんだよ。
「う? あ~!!!」
「カレン!? しっかりしてくれ」
ディール様が駆け寄ると、カレンさんは仰向きで倒れるところだった。
形の良すぎる唇からは、黒いモヤがふわっと吐き出される。
そのモヤが、あたしに言うのだ。
『なるほどな。あまいものとは、こうして食すべきだったのだな。おろかだな、わたしは。さらばだ。もうここに用はない』
みんなに聞こえる声でそう言うと、モヤはそのまま霧散してしまった。
つづく




