四十五話 幸せはやっぱりあまい
まずは。さすがは魔王城の料理長であらせられるばあやさんの華麗なる玉子割り。そして白身と黄身を分ける作業。
おどろくなかれ。これを一気に魔法でやり遂げてしまうばあやさん。さすがです。
あたしがメレンゲを作り始める頃には、チビたんたちが大騒ぎして、スラたんもさすがに目を覚ます。
「すら~!! すらすぅ~!!」
よかった。スラたんは元気に回復できたみたい。
そんなわけで、メレンゲを作るためひたすら撹拌撹拌撹拌撹拌!!
なんだか攻撃魔法みたいで笑えるな。
それでいて、撹拌を手伝ってくれるゾーイが、お約束の、メレンゲがほっぺに飛んじゃったイベントが発生する。
「ほら、もう。ちゃんと拭いて」
これまでのもやもやが一気に晴れたこころでいるせいか、あたしも少し、大胆にゾーイの頬に飛んだメレンゲを拭いてあげる。
「はいはい、ごちそうさま。おかわりはしないので、目に毒ですよ、ノゾミ様」
そうだった。こうしている間にも、ばあやさんのこころのもやもやは膨らむばかりだろう。
どうすれば、この状況を打開できるのか?
そもそも、どうして老婆の姿に変幻していたのか、本当のお年はおいくつなのか。はたまた、好きなタイプはどんな方? というところまで、まったくわからない。
「あの、ばあやさん」
「好きなタイプはねぇ、ここにはいないかなぁ。純粋だけどわたくしを頼ってくれる。そういう人が好きなのですけどね」
思わず横目でスラたんを見てはずした。
「わるいですけど、スライムは論外ですよ?」
「だが、一説によると、金色スライムは前魔王が人間をスライムに化かした説もあるのだぞ?」
え? そうなの!?
だとしたらスラたんにもチャンスがあるかもしれない。だってこんなに純粋なかわいい目だし、かわいいし。
「それでも、スライムはスライムでしょう? 残念ですけどわたくしは獣人族にも興味がありませんので」
獣人族かぁ。あたし、この国に住んでるけど、あんまり見たことがないんだよなぁ。
なんなら魔族らしい人にも会ったこともないくらいだし。
まぁ、今は、おいしいケーキを作ることに専念しましょう。
スポンジケーキが次々と焼き上がる。
ばあやさんの的確な指示のおかげで、ギュルディーノ様をはじめ、ヒトミ様やディール様までが小麦粉まみれになっている。
あたし、今までこんなに楽しくお菓子を作ったことがなかった。
いつも、必死になって、ひとりで殻に閉じこもったようにして作ってきた。
そりゃあ、食べる人の笑顔を想像したことはあるけれど、こんな風に共同作業でお菓子を作る日が来るなんて、信じられないくらい幸せで。
「ねぇ、ゾーイ」
横で作業を手伝ってくれるゾーイに小声で話した。
そう、あれは幼い日のこと。
「あの日、あんたの菓子は好きだって言ってもらえたから、今のあたしがいるんだよ。だから、ありがとう」
「おっ? おぅよ」
ふふっ。照れてる、照れてる。
「あ~もう、目に毒ですってのに」
ごめんなさいね、ばあやさん。
だって今、すごく幸せなんだもの。
つづく




