四十三話 おや? これならどちらかと言うと?
普通のケーキ一個分の糖分で疫病が治ると仮定するなら、凍結される直前まであたしのお菓子を食べつづけてくれたヒトミ様が、ほかの患者さまより先に目が覚めたのもうなずける。
なるほど、そういうことか。
だけど、その都度スラたんたちに協力してもらうのはしのびないしなぁ、なんてたそがれていたら、うしろからゾーイに抱きしめられていた。
いわゆるバックハグ。
ぎゃ~。
「さみしかったぞ、ノゾミ」
ちなみに調理室ではゾーイと二人っきりです!!
「あたし、も。ゾーイ。好き。ずっとそう言いたかったの」
「オレもだ、ノゾミ。子供の頃からずっと好きだったんだぜ?」
バックハグからのくるりんと前を向かされ、髪をすきながらのやさしいけど、少しだけはげしい口づけ。
ちょっぴり汗臭いけど、たくましいゾーイの胸に顔を埋めて、荒い息をごまかす。
ねぇ、ゾーイ。
あたし、人生ではじめて嫉妬したんだよ?
カレンさんに嫉妬するのなんて、永遠にないと思っていたのに。
「そういやさ、挙式の後、どこかへ旅行しないか? ギュルディーノ様が旅費を出してくれるんだってさ。どうする?」
「え? 本当!? やったぁ!! 旅行なんてはじめてだよ。うれしい」
あまりのうれしさにぴょんぴょん跳ねるあたしをマネする金色チビスライムたんたち。
この子たちは総称として、チビたんと呼ぶことになった。
……そのままじゃないか、というツッコミはどうか許して欲しい。
なにしろ今は、軽く酸欠状態で幸せいっぱいだから。
にゃぱ。のろけてしまいましたよ。はっはっはっ。
「あたし、ニホンに行ってみたいなぁ。って言っても、もう存在してないんだけどね。行けたらいいなぁ」
「そうだなぁ。鯵亜はどうだ?」
鯵亜かぁ。あんまりそそられないなぁ。
でも、食文化は気になるんだよなぁ。
「あとでゆっくり考えようぜ。それよりオレ、思いついたんだが」
「え? なにを?」
幸せすぎて、旅行と食べること以外は頭になかったけど、ゾーイに指摘されてスラたんを見ると、元気に復活していた。
「スラたん。元気になったんだね。よかったぁ」
「だが、毎回こんなんじゃ彼らがかわいそうだろう? で、オレが思ったのは。いっそのこと、ウェディングケーキをそのままスライムたちに食べてもらったらどうだろう?」
は?
それはもしや。
卵が先か、鶏が先か論に発展する天才的なアイデアなのでは。
「ゾーイすごいや。試しにケーキ作ってみようか?」
「おう。オレたちの結婚式のための練習だな?」
「お邪魔するぞ。そういうことな、我らも手伝おうではないか」
ギュルディーノ様!!
それに、ヒトミ様にディール様、それにばあやさんまでそろってるなんて。
……ってことは。
全部見られてマシタヨネ?
たはっ。
「それでは、よろしくお願いします」
「はいはい、ごちそうさまなことでなにより」
あれ? どうしてばあやさんが不機嫌なのか?
よくわからないなぁ。
つづく




