三十五話 口づけはマロングラッセの薫り
ゾーイからのリクエストで、マロングラッセを作っているところだった。
「いやぁ、久しぶりすぎて、ちょっと失敗したかも」
栗の渋皮が上手にむけなくて、ゾーイに手伝ってもらったけれど、それでも形が崩れていびつになった。
「いいじゃん。こっちの崩れたやつの方がうまいし。なんか、ノゾミっぽい」
「ちょっと、あたしらしいってなんなのよぅ!?」
ははっ、なんて笑いながら、ゾーイが目の前に立っている。
正面から肩を抱かれて胸が高鳴る。
ばあやさん、今日は用事があるからってことで、調理室は二人きりだけど。
ドアに鍵をかけてないんだぞ?
それでもかまわず、ゾーイはあたしの顎を上向かせる。
ふれるだけの、やさしい口づけ。
多分これが、あたしにとってのファーストキス。
ほんのりとあまい、マロングラッセの薫りがした。
ふふっ。
これからマロングラッセを作るたびに、このことを思い出すのかな?
恥ずかしいな。
だけど、ゾーイは本当に不器用だなぁ。
いっつもあたしに好き好きビームを出していたんだぜ、なんて言われたけど、全然わからなかったんだからねっ。
もう。
ところで、ヒトミ様が目をお覚ましになったら、あたしはもうお城に居なくても良くなるのかしら?
そうしたらゾーイと離れ離れになるのかな?
それは、嫌だな。
「っんぐつ!!!」
ふいに胸を押さえたゾーイに、反対側の手で突き飛ばされた。
え?
なに?
すごく苦しそうなんだけど??
「はぁ。わるいな、ノゾミ。オレ、自分に凍結魔法かけられないから、ギュルディーノ様たちをお呼びするからな」
え?
待って、どういうこと?
凍結魔法って。
どうして?
考えている暇もなく、周囲の空間が歪んだ。
カレンさんと前王の魔法は解いたはずなのに、どうしてまだ疫病があるの?
これが、この苦しそうな症状が、疫病なの?
「すまない。カレンを優先して遅れた。ゾーイは横になれ。倒れるといけない」
ばあやさんは若返った状態だ。
「ノゾミ、ごめんな。元に戻ったら結婚式を挙げような?」
……ずるいよ。
今、そんなことを言わないでよ。
だって、そんなのって栗の渋皮みたいな約束じゃない。
だけど、あたしの不安をよそに、目の前でギュルディーノ様とばあやさんによって、ゾーイが凍結されてゆく。
「待って!! あたしまだゾーイに好きだってちゃんと言ってないんだからっ!!」
「ばっか、だな。そんなの言わなくてもわかってら――」
ゾーイ!!
ゾーイは凍結された。
ギュルディーノ様の魔法で、凍結部屋に案内されたあたしは、そこでヒトミ様が目覚めていることに気がついた。
けどもう、ゾーイもカレンさんも凍結されている。
これって、どういうことなのっ!?
つづく




