二十六話 レモンスカッシュ
レモンケーキで余ったレモンを消費したい。
みなさん、まだまだ胸やけしているみたいだから、今日は思い切ってレモンスカッシュに挑戦してみたんだ。
「んぐ、んぐ、んぐっ。っかぁ~!! うめぇ!!」
やたら下品な音をたてて飲み干したゾーイが、乱暴にコップをテーブルに置いた。
「ちょっと、ゾーイ。コップが割れたら弁償もんだよ?」
そうなのだ。魔王城は、ほとんどの品物が前王が残したものをそのまま使っている。
なにかと贅の限りを尽くしていた前王だから、たかがコップ一個とってもめちゃくちゃ高そう。
誰よ、粗雑な性格のゾーイにキリコ製のコップを渡したのは、なんて鼻息を荒くしたのも一瞬で消えた。
だって、犯人はカレンさんだってすぐにわかったから。
「いいじゃないですか、ノゾミ様。こんなコップのひとつやふたつ。割れたら掃除して捨てればいいんですし。ねぇ? ゾーイ」
もしかして、見せつけてます?
もしそうだとしたら、カレンさんって、本当は性格がわるかったことになる。
……気のせいだ。そう、きっと気のせい。
なのに。
「はい、おかわりをどうぞ。ああ、ディール様にも今おつぎしますね?」
……あのぉ。レモンスカッシュ作ったのはあたし、なんですけど?
なんでお酒のお酌みたいなことをカレンさんが率先してやっているのか、あたしにはまったくわからない。
もしかして、カレンさんって男の人は全員自分を見ていて欲しい人だったりするのかな?
だとしたら、かなり厄介かもしれない。
ほかのみなさんも、あたしたちを遠巻きに見まわしているし。
なんなら自分たちが巻き込まれないようにと、そそくさと去ってゆく者までいる。
これでは商売上がったり、だよ。とほほ。
なんて肩を落としていたら。
突如として空間が歪んだ。
誰かがここに瞬間移動しようとしている前兆だ。
しかも、かなり魔力の高いお方のようだ。
と、するとやはり……。
シュン、と現在の魔王城の主であるギュルディーノ様があらわれた。
「ほう、ちょうどのどが渇いていたところだ。もらってもよいだろうか?」
「ギュルディーノ様、はい。かまいません」
ギュルディーノ様の顔色は土気色に近いほど切羽つまっている。額には冷や汗をかいているし、今日もスライムと戦ったのだろうか?
なんて思う暇もなく。
「ノゾミ様、どいてくださいな」
カレンさんにより、あたしはあっさり退かされた。
「はい、冷たいレモンスカッシュです。炭酸飲料ですが、お酒ではありませんのよ。ほほほ」
おのれ、カレンさん。手柄を独り占めするなんざぁ百年早いわ。
それに、太るからという理由だけで、レモンスカッシュをひと口も飲んでいないカレンさんにここまでされたんじゃ女がすたる。
反撃するなら今、この時だ。
「よろしければ、昨日のレモンケーキもありますよ? おひとついかがですか? あまさひかえめなんです」
「おお、ではもらうとするか」
戸棚へと向かうあたしをとんでもない形相でにらむのはカレンさん。おのれ、負けてたまるか。
「ギュル様は、レモンケーキのようなあまいお菓子は好みではありませんのよ? ノゾミ様」
まったく、なんでそうやっていちいち突っかかってくるのかな?
「かまわん。実を言うと、三日ほどなにも食べてないのだ」
え?
ギュルディーノ様にいったいなにがおきたのか!?
つづく




