二十一話 緑茶、あるいはまた別のなにか
あげ餅が衛兵さんたちを始め、城内で働く方々に好評だったため、急遽それに合う飲み物を考えることが決まった。
とは言っても。あたしはもっぱらお菓子専門であって、飲み物なんてコーヒーか紅茶か、それとも単なる緑茶だかですませて生きてきた。
飲み物に対する知識はゾーイの方が詳しかったりする。
と、いうわけで。本日はゾーイと二人でお茶がいいのか、紅茶、あるいはコーヒーかで飲み比べをしている。
なんというか、まぁ。
……久しぶりに距離が近い。
初恋なんて、わすれかけていたのに。
ゾーイの近くにいると、わすれていた気持ちが呼び醒まされることがある。
「うむ。オレ的にはあまくない緑茶が好きなんだよなぁ。ほれ、飲んでみ?」
なんて、飲みかけの湯呑みをあたしの前にことりと置いた。
……間接的なチューにならないように、少しずらせて飲んでみた。
「うん。緑茶は緑茶でおいしいんだけど、あたしはやっぱり少しあまみが欲しいな。」
「そうか? なら、紅茶を試してみようか?」
城内で手に入る茶葉はほとんどすべてが高級品で、いち庶民のあたしとしては、かなり選ぶのがむずかしい。
ゾーイが紅茶を選んでいる横顔をみて、また少し先を越されたような、さみしい気持ちに襲われる。
ゾーイはどんどんお城のみなさまと仲良くなって、溶け込んでゆくけど、あたしはほとんど調理室から出ないから、決まった人としか話さない。
しかも、ゾーイの男らしさに磨きがかかっているとなれば、玉砕したとはいえ、やっぱりヤキモキしてしまう。
だって。
侍女長のカリンさんと一緒にいるところをよく見かけているから。
これって、ヤキモチなのかな?
ゾーイには振られたのに。それでもまだ少しは気持ちが残っているとするならば。
未練たらしいな。
こんな気持はいらないんだよね。
あたしらしくないから。
それに、原因がどうであれ、あたしの作った落雁が元で、ゾーイのお爺さんがお亡くなりになった事実は変わらない。
だから、こんな気持を抱えてはいけないんだ。
「うーん? たくさんありすぎるんだよなぁ。薫りだけなら、女性はピーチティー。男性はレモンティーといったところかな? どう思う?」
「え? あ。うん。そうだよね」
やばっ。うっかりゾーイに見惚れてた。
「ちゃんとオレの話を聞いてなかっただろう?」
う。だって、こんな風に二人っきりになるのなんて久しぶりすぎるから。
ばあやさんは今日、お孫さんが熱を出したので欠席だし。
「ごめんね、ゾーイ」
「いいけどさ。あんた、なにかあるとすーぐひとりで抱え込むからな? なんでもいいからオレにも頼れよ?」
なんて、やさしく頭をなでてくれるから。
ごまかしたくなるじゃない。
「やっぱり、おせんべいにはコーヒーより紅茶の方が合うかもしれないよね」
なんて、本来の話に戻るしかなくて。
「うん。じゃあ、ドリンクバーみたいなものを作ればいいんじゃないかな? 飲みたいものを、飲みたいだけ選んで飲んでもらえるし、その方がこちらとしても気が楽になるし」
「その手があった!! ゾーイ天才!!」
「だろ? ははっ」
そうやって、カリンさんの前でも無防備に笑わないで欲しいな。
ちょっとだけ、ゾーイのシャツの裾をつかんだ。
「なに? どうした?」
「……ホームシック。みたい」
「そっか。なら、頭なでなでしてやろう」
お願い。あたし以外の女の人に、あんまりやさしくしないでね?
つづく




